<4ROUND>

もうすぐで12時になる。
放送室で放送の準備をしている玲は、一人楽しそうに笑っている。先程の不破と翼の様子を思い出しているのだ。

玲「もー不破くんてば素直なんだからっ♪ 手錠と縄跳びがあれば、翼にあ〜んなコトvやそ〜んなコトvvが出来たのに(まぁ、実際にそんなことになったら流石の私でも止めるけど)
それから、手錠のことを入れ知恵した彼のはとこにも、ぜひ会ってみたいわねっv」

ひとしきり萌えると、玲は放送を始めた。

玲「12時になったわ。放送の時間です。お腹空いてるでしょうけど、もうすぐ終わりそうだから頑張ってね。
あ、いくらお腹空いてるからって、翼を食べちゃダメよ〜うふふv」
全(何てこと言うんだ監督(玲)は・・・!!ι)
玲「それじゃあ失格者言うわね。10番渋沢克朗くん、21番吉田光徳くん、18番三上亮くん、3番郭英士くん、12番杉原多紀くん、17番不破大地くんです。
次はー禁止エリア言うわよ。校長室、音楽室、3−3の教室です。
残りはあと7人! そろそろラストスパートかけてねv」
佐藤「残り7人か・・・。姫さんもまだ残っとるみたいやな。急がんと・・・」

3階の廊下を歩きながら一人ごちる佐藤。
と、前方に誰かの姿が見える。

佐藤「(あれは・・・)おい、黒川?」

後ろからいきなり声をかけられて、黒川は少し驚いた様子で振り向く。

黒川「佐藤か・・・」
佐藤「ここまで残るとは流石やな。お前、誰か殺ったか?」
黒川「ああ・・・。李と、鳴海と杉原を倒した。そういうお前はどうなんだ?」
佐藤「俺か? 俺はまだノリックだけや。せやけど、どーやらお互いにゲームに乗っとる身っちゅーことやな」
黒川「ああ・・・やるか?」

黒川はすっと身構えた。

佐藤「ちょお待ち! お前の武器は何や? 俺はホンマは生卵やったんやけど、今はこのハリセンとコショウや」

と、佐藤はハリセンとコショウを取り出した。

黒川「俺は・・・鼻メガネだ」
佐藤「うわ、しょーもな!!」
黒川「ほっとけ。お前も人のことが言えるかよ」
佐藤「せやな。けど、俺はお前相手に武器を使う気はないで」

佐藤はそう言うと、ハリセンとコショウを投げ捨てた。

黒川「・・・どういう意味だ?」
佐藤「お前とは、一度サシでやってみたくてな。何たって、姫さんに一番近い場所にいる男やし。何となくやけど、お前を倒さんと、姫さんは手に入れらないよーな気がするんや」

ポキポキと指を鳴らしながら佐藤が言う。

黒川「面白ぇ・・・なかなか手応えがありそうだな」

黒川も不敵に笑う。バッグを下ろし、佐藤との間合いを取る。

玲「おーっと! ここで今、このゲームが始まって初の、まともな肉弾戦が開始されようとしています!!」
黒川&佐藤「「何やってんだ(や)、あんた!!」」

突如現れた玲に、二人は揃ってツッコミを入れる。

玲「何って、実況よ。近くで話し声がしてるから、何かと思って見に来たら、面白いことが始まるみたいだから♪」

やっぱり生で見なくちゃねvと、玲は二人に聞こえないように小さく呟く。

佐藤「そーか。ここから3−1の教室は近いんやな」
玲「せっかくだから、ギャラリーも呼んであるわ」

玲が指し示す方向を見ると、頬に×印が書かれている失格者達が、わいわい騒ぎながらこちらを見ている。

黒川「呼ぶな―――!!」
上原「どっちが勝つかな」
桜庭「黒川だろ。椎名のナイト(←?)だし」
不破「俺のデータによると、佐藤のほうが優勢だな」
藤代「よし、じゃあ佐藤に100円!」
黒川「賭けんな!!」
玲「ほらほら、私達のことは気にしないで、戦って戦って♪」
黒川(気になるっつの・・・)
佐藤「まぁ、ええか。ほな、始めよか、黒川」
黒川「・・・そうだな」


玲「身構えて対峙する二人。おーっと、佐藤が先に動いた! 黒川に向かってパンチ、しかし黒川は難なくかわすっ!!」

玲の実況付きで戦闘は始まった。

玲「今度は黒川が蹴りを入れようとします、が、佐藤も軽くかわしました! どうでしょう、解説の渋沢くん」
渋沢「ええ、二人ともいい動きですね。実践で鍛えてきた分、経験も豊富でしょうし」
黒川(解説もあるのかよ!)
佐藤「余所見しとる暇は無いで!!」
玲「黒川の一瞬のスキを突いて、佐藤は黒川に肘鉄を入れる! 見事にヒット!!」
黒川「ぐっ・・・」
玲「よろめいて体勢を崩す黒川。おっと、ここで佐藤はペンを取り出した!」
佐藤「もらった!!」
玲「しかし、その手を黒川は受けとめるっ!!」
黒川「・・・そう簡単にやられてたまるかよ」
佐藤「流石に手強いな・・・わくわくするで」

佐藤は唇をペろっと舐めて、一旦黒川から離れた。

須釜「二人ともすごいですね〜」
高山「男と男の勝負っちゃな!」
吉田「ええで〜藤村〜!!」
佐藤「どーもどーも」

ギャラリーの声援にひらひらと手を振って答える佐藤。
と、

佐藤「!」
玲「そのスキを突いて、黒川が佐藤に攻撃を仕掛ける! しかし、佐藤は素早く避けるっ! ああっ、黒川の第二撃、回し蹴り―――っ!!」
渋沢「見事な型ですね。それをかわす佐藤もすごい!」
玲「あ〜っと、蹴りをかわした佐藤はそのまま黒川の腕を掴み、逆関節を決めたっ!!」
黒川「・・・っ」
佐藤「暴れんなや。痛くなるだけやで」
黒川「・・・・・・」
佐藤「お前との勝負は楽しかったけど、これで終いやな」
黒川「そう・・・みたいだな。悔しいけど、俺の負けだ」
玲「佐藤は黒川の右頬にペンを走らせる。戦闘終了、勝者佐藤!」

わっと歓声の上がるギャラリー一同。と、そのギャラリー達の歓声の中、黒川は佐藤に近付いていく。

佐藤「何や?」
黒川「もしかして、お前が翼の・・・」
佐藤「・・・え?」
黒川「・・・いや、何でもねぇ。ただの勘だ」
佐藤「さよか・・・」
玲「さあさあみんな、教室に戻って。柾輝も来なさいね。
佐藤くん、これで残りは6人よ。・・・頑張ってねv」

玲は意味ありげな笑みを浮かべ、ギャラリーを引き連れて3−1の教室に戻っていく。黒川もそっとその列に混じる。

黒川「・・・じゃあな」
佐藤「ほなな」

佐藤は黒川に背を向けて歩き出した。投げ出したハリセンとコショウを拾い、置かれたままの黒川のバッグも持ち上げる。そして中から鼻メガネを取り出した。

佐藤「ホンマに鼻メガネやったんか・・・。何かに使えるかもしれんし、とっとこ」

佐藤はそれを自分のバッグの中に入れて、再び歩き出した。


<残り6人>




水野「何だか上が騒がしいな・・・。誰かいるのか?」

佐藤と黒川が激闘を繰り広げていた時。ちょうどその階下の廊下に水野はいた。

水野「ちょっと見に行ってみるか」

と、階段に向かおうとした時、

?「水野くん」

誰かから声をかけられた。
今残っているメンバーの中で、水野を君付けで呼ぶ人物はただ一人。

水野「風祭・・・」
将「やぁ、水野くん、久しぶり。・・・あれ? なんか口腫れてない? 目も赤いし・・・」
水野「ああ・・・これはちょっと三上にな」

三上にタバスコを飲まされて水を探しに走り回ったことを思い出して、すごい形相になる水野。

将「ふぅん・・・。ところでさ、水野くん、」
水野「何だ?」
将「ぼく、このゲームに乗ってるんだ」
水野「・・・いいのか? そんな簡単にばらして」
将「もう残り数人って時に隠しても仕方ないし。それに、水野くんとはちゃんと勝負したいからね。
まぁ、翼さんに弟のように可愛がられてるぼくと、たまに2ショットがあるくらいの水野くんじゃ、勝負は見えてるけどねv」
水野「なっ・・・お前、今さり気に酷いこと言っただろ!! 『たまに2ショット』って言ったけどな、意外に椎名と俺の絡みはあるんだぞ! ここのHPに載ってる『水翼ポイント』見てみろ!!」

↑すみません、宣伝です(爆)

水野「大体お前が椎名に可愛がられてるのだってな、主人公だからって特権に過ぎないんだよ!!」
将「水野くんだって酷いこと言ってるじゃない! ・・・でも、あのねぇ、ぼくが翼さんと絡みが多いのはね、主人公だからだって理由だけじゃないよ、多分。やっぱり性格も関係あると思うんだ。それに、小さい者同士、並んでると可愛いしねv」
水野「何言ってんだ、椎名と並んで一番絵になるのは、笛キャラの中で一番美形な俺だろ」
将「(ぼそ)自分で美形って言っちゃうあたりがねぇ・・・」
水野「何か言ったか?」
将「別に。でも、やっぱり君とは決着をつけないといけないみたいだね」
水野「そうだな・・・」

二人の間に、何だか邪悪なオーラが流れる。

将「ところで、勝負するにあたって、一つ条件があるんだけど」
水野「条件?」

不思議そうな顔をする水野。
将は、バッグからハゲヅラを取り出した。

水野(・・・ヅラ?ι)
将「ぼくが勝ったら、水野くんにこのヅラを被ってもらう」
水野「何だそれはっ!!」
将「だけど万が一、君が勝ったら・・・」
水野「勝ったら・・・?(ごくり)」
将「みんな、さぞかしガッカリすると思うよ・・・(ハァ・・・)」
水野「か、感じ悪い―――!!(つーかまたマサルネタかい)」
将「ま、とにかくそういうことでいいよね」
水野「何か腑に落ちんものがあるが・・・それでいいぜ」
将「じゃあいくよっ、水野くん!」

将はペンを手に水野に向かっていく。水野はさっと避け、最後のトマトを将に投げ付けた。
しかし・・・!

水野「なっ、消えるフェイント!?」

将は消えるフェイントでトマトをかわし、水野に体当たりした。水野は体勢を崩す。
将はタコ糸を取り出すと、それで水野の身体をグルグル巻きにしていった。

水野「う、動けない・・・ι」
将「ぼくの勝ちだね♪」

将はにっこりと笑い、水野の頬にペケ傷を書いた。
そして、元々は渋沢の武器だったハゲヅラを、水野の頭にしっかり被せた。

将「うん、なかなかいい感じv」
水野「いい感じでたまるかよ・・・」
将「カメラが無いのが残念だな〜。この姿、みんなに、特に翼さんに見てもらいたかったのに」
水野「やめてくれー俺のイメージが崩れる!!」
将「大丈夫だよ。『あの水野がね〜』って目で見られるだけだから」
水野「それが嫌なんだよ! ”クールで美形な司令塔”で通ってんのに!」
将「”ヘタレ”が抜けてるよ」
水野「おい・・・(怒)」
?「そないなヅラ被って睨んでも、迫力無いで」

突然聞こえてきた第三者の声に、将と水野ははっとそちらを見た。
階段に、佐藤が立っていた。ゆっくりと二人の方へ歩いてくる。

佐藤「何か声がするから来てみれば・・・タツボン、おもろい姿になっとるな、ププ」
水野「笑うな!!」
佐藤「ポチにやられたんか?」
水野「・・・そうだよ」
将「次はシゲさんを同じようにしてあげますよ」
佐藤「・・・それは楽しみやな」

にこっと笑う将に対して、佐藤は不敵な笑みを浮かべた。


<残り5人>




将「さっき、上も騒がしかったようですけど、シゲさんが誰かと戦ってたんですか?」
佐藤「せや。黒川を倒してきたで」
水野「・・・他には誰を倒したんだ?」
佐藤「同じこと黒川にも訊かれたなぁ。その黒川と、ノリックや」
将「ぼくはそこの水野くんと、渋沢さんです。今水野くんが被ってるヅラも、元々は渋沢さんのだったんですよ」
佐藤「ほぉ・・・。実はな、俺もええ物持っとるんや」

と、佐藤は先程手に入れたばかりの鼻メガネを取り出した。

佐藤「これは黒川のやったんやけどな・・・ポチがもし俺に負けたら、これ着けてもらうってのも面白そうやな」
将「へぇ・・・」
水野「シゲ――頑張れ―――!!」
将「あっ! 水野くん、自分がヅラ被ってるからって、ぼくにも同じような目に合わせたいんだ?」

将が水野に目を向けた一瞬のスキに、佐藤は将のすぐ近くまで走り込んでいた!

将「くっ!」

けれど、将は持ち前の反射神経で佐藤のペンを避けた。だが、佐藤は左手にハリセンを持っている。
スパーン!!ととても音を立てて、ハリセンは将を捕らえた。

将「うわっ!」

よろける将にすかさず足払いをかけて転ばせると、佐藤は将を押さえつけ、頬に×を書いた。

佐藤「まだまだやな」
将「流石はシゲさん・・・強いなぁ」

将は力無く笑う。

佐藤「姫さんがかかっとるから、なおさらな」
将「そうですね・・・。でも、このゲームではぼくはこれで終わりですけど、誰が優勝しても、翼さんを諦めたりしませんからね!」
水野「俺だって! ・・・それに、他の奴らもそう簡単に諦めなさそうだぜ。その辺、肝に銘じておけよ、シゲ」
佐藤「忠告どーも。せや、二人とも、どっかで姫さん見なかったか?」
将「ぼくは会ってませんよ」
水野「俺も見てない」

佐藤の問いに、二人は揃って首を振る。

佐藤「さよか・・・。えーっと、ポチとタツボンと黒川は脱落やから・・・今残っとるのは誰や?」
将「翼さんと、真田くんと若菜くん。それとシゲさん」
水野「まだやられてないなら、の話だけどな」
佐藤「真田と若菜ってどんな奴や?」
水野「ヘタレ。」
将「犬。」
佐藤「いや、参考にならんて!! ・・・外見の特徴や」
水野「ツリ目と茶髪だ」
将「仲が良いから、一緒にいるかもしれないですよ」
佐藤「さよか。すまんな。
・・・あ、忘れるとこやった」

佐藤は鼻メガネを将に着けさせ、水野の横に並ばせてみた。

佐藤「異様な空間が広がっとるな・・・ぷっ」
水野「また笑うし・・・。でも、風祭、お前確かに面白いぞ」
将「鼻メガネかければ、誰だって面白い顔になると思うよ・・・」
水野「まぁな・・・。それより、この糸、いい加減ほどいてくれないか? 動けないんだけど」
将「あ、ごめん」

将は水野の身体に巻かれているタコ糸を外した。

水野「あー、やっと自由になった」
将「あれ、水野くん、ヅラ取っちゃうの?」
水野「もう充分だろ・・・。お前も外せよ」
将「うん、そうだね・・・」
佐藤「あ、そのヅラと鼻メガネ、いらんなら俺にくれや。また何かに使えるかもしれんし」
水野「別にいいけど・・・」

二人はそれぞれ手にしていたものを佐藤に手渡す。

将「それじゃあ、ぼくたち3−1に行きますね」
水野「じゃあな、シゲ」
シゲ「ほなな」

佐藤は軽く手を振って、去っていった。

将「・・・もうすぐで、優勝者が決まるね」
水野「そうだな」
将「あーあ、シゲさんにはああ言ったけど、やっぱり優勝したかったなぁ・・・。翼さん・・・」
水野「俺だって・・・。うう、椎名・・・」
将「・・・翼さんの好きな人って、まだ残ってるのかな」
水野「シゲと真田と若菜か・・・どうだろうな。もう脱落したらしいけど、やっぱり黒川なんじゃないか?」
将「仲良いもんね・・・。でも、ぼく達がここでどうこう言っても仕方ないし、教室行こっか」
水野「ああ・・・」

二人は、階段を昇り始めた。


<残り4人>




若菜「何かさーここまで残ったのに、結局俺らって英士としか会ってねぇよな」
真田「さっき上の方が騒がしかったから行ってみたのに、俺らが着いた時はもう誰もいなかったし」

そんな会話をしつつ、この二人は1階廊下を歩いていた。

若菜「あ〜あ。ついてるんだかついてないんだか・・・」
真田「! 結人、あれ・・・」
若菜「え?」

真田は声を小さくして、前方を指差す。若菜がその方向を見ると、小さな人影が遠くに見えた。
ここからではそれが誰なのか判別できないが・・・。

若菜「椎名・・・かな!? なんか背低いし!」
真田「でも、風祭かもしれないだろ」
若菜「あ、そうか・・・」

翼かと思い、嬉しそうな顔をした若菜だったが、真田の言葉を聞いてふと黙り込み、何かを考え始めた。

真田「結人?」
若菜「・・・あれが椎名なのか風祭なのかまだ分かんないけど、どっちにしても俺達には好都合だろ。俺にいい考えがあるんだけど・・・」
真田「どんな?」
若菜「一馬、あいつに話しかけて、しばらく引き止めておいてくれないか? その間に、俺は違うルートであいつの裏に回りこんで、あいつを捕まえるから」
真田「成程・・・いい考えだな。それでいくか」
若菜「じゃ、そーゆーことでよろしく!」

と、若菜は別ルートを探しにいく。残された真田は、深呼吸を一つして、遠い人影に向かって歩いた。
近くまで来たところで、その人物が真田の足音に気付いて振り向く。

翼「なんだ、真田か・・・」
真田「な、『なんだ』って言い方はないだろ!?」

やっと見つけた翼なのに、そんな言葉が返ってきたので、真田は思わず怒鳴ってしまった。

翼「悪かったよ。・・・お前さ、一人? まだ若菜が残ってただろ? 一緒じゃないわけ?」
真田「あ、ああ、俺一人だ」

引きつった笑顔で真田は答える。

翼「ん、お前、その一本傷、誰にやられたの?」
真田「あ、・・・英士だよ」
翼「ふーん。お前らもバラバラになることあるんだね」
真田「そりゃな・・・」
翼「珍しいな」
真田「・・・そうかよ」
翼「・・・・・・」
真田「・・・・・・(やばい・・・)」

会話が止まってしまった、と真田は思った。

真田(どうしよう・・・ι)
翼「・・・なぁ、お前ってさ、」
真田「な、何だよ」
翼「俺のこと、好きなの?」
真田「・・・えっ!!?」

思いがけなかった突然の質問に、真田はびっくりして真っ赤になってしまう。

翼「お前って、俺にケンカばっか売ってくるから、絶対俺のこと嫌いなんだって思ってた」

そう言って、翼は寂しそうな笑みを浮かべた。

真田「(えぇっ!!?ι こ、これってひょっとして・・・監督が言ってた、”椎名の想い人”って、俺なのか!?///)

もしかして脈あり!? 言うなら今しかない!!と真田は思った。

真田「・・・椎名っ、俺は、俺は・・・ずっと椎名のこと・・・
好きだった・・・

先程よりもずっと赤い顔で、真田は俯いてしまう。語尾は小さかったが、翼にはちゃんとその言葉は届いていた。
くすっ、と翼は小さく笑みを漏らす。

翼「ありがと、真田」
真田(! やっぱり、椎名は俺のこと・・・!!)
翼「でも、俺が好きな奴はお前じゃないんだ。
ごめんな



・・・まさに、天国から地獄。

真田、撃沈。


ぷちぷちぷち(←真田の何かが切れた音)

真田「
何だよそれっ!! 期待させといてそれはないだろ!!!」
翼「え!? 何、期待してたの!? 俺はそういうつもりで言ったんじゃねーよ、勝手に変な勘違いして逆ギレすんなよ!!」
真田「〜〜〜くそっ!」

突然、真田は翼の背後に回りこみ、彼を羽交い締めにした。
驚いたのは翼である。

翼「! ちょっと、何すんのさ!?」
若菜「あ〜〜〜っ!! ずりーぞ一馬っ! それ、俺がやるはずだったのに〜〜!!」

とっくに回り込んで物陰に隠れていた若菜が、叫びつつ飛び出してきた。

翼「若菜! ・・・何だよ、やっぱり一緒にいたんじゃん」
真田「そうだよ!」
若菜「一馬、しっかり押さえてろよ」
翼「え、ちょっと・・・」

若菜がペンを片手に近付いてくるのを見て、翼は慌てて暴れ出した。

真田「う、動くなよっ」
翼「お前らっ、こんな卑怯な手使って情けなくないのかよ!? 不破も似たよーなことしてきたけど、天然だった分あっちの方がまだましだっ!」
真田「情けないとは思うけど・・・」
若菜「椎名を手に入れるためなら、な。ただでさえライバル多いし、なりふり構わずに手に入れたい愛ってのもあるんだよ」
翼「何わけ分かんないこと言って・・・ちょっ、やめろよ!」
若菜「・・・悪い!」

翼の頬を若菜のペンが走った。
とても小さな×が書かれた。

翼「あ・・・」
真田「・・・本当に、悪いとは思ってる。でも・・・やっぱり椎名を諦めるなんてできねぇ!」

真田は、言いながらそっと椎名を話した。

若菜「俺ら、諦めが悪いからな。それに、なんてったって、椎名と二人っきりの国内旅行!! こんなおいしいシチュエーションを逃すわけにはいかねぇ!」
真田「ああ、そうだな! 今まで玉砕しまくってんだ、今更はっきり言われたからって、立ち直らないなんて男じゃねぇ!」
若菜「よく言った、一馬! 立派に成長してくれて、お父さんは嬉しいよ!」
真田「お前は俺の親父じゃないだろ」
若菜「厳しいツッコミアリガトウ。ちょっとしたアメリカンジョークだぜっ☆
さぁ、一馬、今度は俺が相手になるぜ! 椎名をかけて、勝負だ!!」
真田「望むところだ、結人! これで勝った方が優勝だな!」


翼「・・・お前ら・・・・・・」

何やらやたらハイテンションな二人の様子に、ぷちぷちと、今度は翼の何かが切れそうになった時・・・。



?「なんや、面白そうなことしとるなぁ。俺も混ぜてもらえんか?」


辺りに響いた声に、真田、若菜、そして翼の三人が振り向く。そこには・・・

真田&若菜「「誰?」」
翼「・・・佐藤・・・!」

翼の言葉通り、佐藤が立っていた。佐藤は翼に目を向け、彼の頬にペケ傷があるのを見た。
その途端、笑みを浮かべていた佐藤の顔がふっと真剣な面持ちになる。

佐藤「さっき優勝がどーのこーの言うてたみたいやけど・・・俺のこと忘れてもらったら困るで。
・・・まして、姫さんに手を出したお前らを、許すわけにはいかんしなぁ」

佐藤は真田と若菜の二人を睨みつけるようにして見る。
二人はあまりの眼光の鋭さにびびりつつ、

若菜「手ェ出したって、そりゃ言いがかりだぜ! むしろこれから出すんだから」
真田「そ、そうだぜ! 邪魔するなら・・・いや、邪魔しなくても、どの道お前は倒さなくちゃいけねぇみたいだな」
若菜「俺達のコンビネーションの前に敵はないさ! 行くぞ、一馬!」
真田「ああ、結人!」


真田&若菜「「トライアングル・フォーメーション!!」」


佐藤から1、2メートルほど離れて、真田は彼の前、若菜は後ろに、と位置取りする二人。

若菜「俺達三人で一人をマークする時のフォーメーションさ」
真田「これに囲まれた奴は、身動きが取れないんだよ!」
真田&若菜「「さあっ、覚悟しろ!!」」


佐藤「あのなぁ・・・」
翼「・・・トライアングルって・・・二人しかいないじゃん。」



・・・・・・。


若菜「あああしまったぁ! 今、英士はいないんだあぁ!!」
真田「くっ、ついいつもの癖で!!」
佐藤「・・・姫さん、ひょっとしなくてもこいつらってアホ?」
翼「・・・何だかこんな奴ら相手にあっさり負けた自分が情けなくなってくるよ・・・」
若菜「くそっ、英士がいなくても、このゲームの中で編み出した作戦があるさ! 今度こそ、行くぞ、一馬!」
真田「ああ、結人!」

気を取りなおして、二人はペンを手に佐藤に向かっていく。
が、


佐藤「俺を舐めんな―――!!」




カッ!!



勝負は、一瞬だった。


<残り3人>