<3ROUND>

玲「本当、誰なのかしらね、翼の好きな人って」

一方こちらは3−1の教室。監視カメラの映像を観ながら、玲はうっとりとした口調で言った。

藤代「誰なのかしらね、って、監督は知ってるじゃないっすか」
玲「そういえばそうだったわね♪」
藤代「ずるいっすよ〜俺らにも教えて下さいよ〜」
桜庭「うるせーぞ藤代。静かにしろよ」
須釜「ところで監督、そろそろ放送の時間じゃ・・・」
玲「あら、そうね。それじゃあちょっと行ってくるわ」

玲が3−1の教室から出てしばらくすると、ピンポンパンポーンという音楽がスピーカーから流れてきた。

玲「11時になったわ。放送の時間よー」

その放送を、将は1−1の教室で聞いていた。

玲「失格者言うわよ。6番桜庭雄一郎くん、2番上原淳くん、16番藤代誠二くん、20番山口圭介くん、15番鳴海貴志くんです。
この一時間で5人脱落なんて、やっぱりいいペースだわ。案外早く片が付くかもしれないわね」
将「うーん、でも結構手強い人達が残ってるなぁ。黒川くんとか、シゲさんとか、郭くんとか」

放送を聞いて呟く将。

玲「それじゃ、次は禁止エリア言うわよ。1−3の教室、美術室、被服室の三か所よ。今中にいる人は出なさいね。
残りはあと13人、頑張りなさいね〜♪」

放送は終わった。

将「残りはあと13人か。まだ半分も切ってないんだよね。山口くんを逃して以来、誰とも会ってないしさ」

ガラッ。

その時、戸が開く音が。将は振り向く。
そこにいたのは渋沢だった。何故かハゲヅラを被っていた。

将「し、渋沢先輩!?  ぷっ・・・」

清純派を装いつつも、笑いをこらえきれない将であった。

将「どうしたんですか、そのヅラ」
渋沢「これが俺の武器なんだ」
将(そんなものまで・・・ι)
渋沢「似合ってるか?」
将「はい。」
渋沢「(やはりか・・・)ところで、水野とかとは一緒じゃないのか?」
将「ええ、ぼく一人ですよ」
渋沢「そうか・・・残念だな。何人かいれば、一気に片付けられると思ったのに」
将「先輩・・・? やる気になってるんですか?」
渋沢「可愛い椎名を俺以外の奴に渡したくはないからな・・・。だから風祭、悪いがここで脱落し・・・むっ!?」

少しずつ風祭に近付いてきていた渋沢は、突然前のめりにこけた。
将が仕掛けておいた、足元にピンと張ってあるタコ糸に引っ掛かったのである。
将はすぐに渋沢のところへ行き、ペケ傷を書いた。

将「だめですよ、先輩。背が高いのは分かるけど、ちゃんと足元も見なくちゃ♪」
渋沢「・・・そうだな。油断してた俺の負けだ」
将「それと、そのハゲヅラ、もらっても良いですか?」
渋沢「ヒゲダンスでも踊るのか?」
将「違いますよ!! 第一ヒゲなんてないじゃないですか!!
・・・こんなものでも何かに使えるかもしれないって思ったんで」
渋沢「別に構わないぞ。もう必要のないものだし」
将「ありがとうございます!」

将は、腹黒さなど微塵も感じさせない笑みで礼を言うと、その場から去っていった。

将「さ〜って、このヅラを被せるターゲットを探しに行くかな。水野くんとかの美形キャラなら言うこと無しなんだけど・・・ふふふ♪」


<残り12人>




調理室では。
調理台の上に器やバケツや菜箸などを並べて、佐藤が何かをやっている。

佐藤「よっしゃ、出来たで〜佐藤成樹特製卵水v」

佐藤の支給武器は生卵3個だった。それを割って溶いて水と混ぜて、彼はドロドロの卵水を作ったのである。相手をひるませるのに使えるのではないかと考えて。

佐藤「ほな、行くとするか」

佐藤はその卵水が入ったバケツとお椀を手に調理室を出た。ちなみに、ペンはポケットに忍ばせてある。
彼がしばらく歩くと渡り廊下に出た。
と、向こう側に人影が見える。

佐藤「そこにおるのは、誰や?」
吉田「その声、藤村か!? ぼくや、ノリック」
佐藤「なんや、ノリックか。・・・単刀直入に訊くけどな、お前もこのゲームに乗っとるんやろ?」
吉田「当たり前だのクラッカーや」
佐藤「古!!」
吉田「それはともかく、そう言うお前も乗っとるんにゃろ?」
佐藤「せや。・・・なら、話は早いな。勝負や、ノリック!」

左手にバケツ、右手にお椀を持った佐藤は身構えた。

吉田「それ、藤村の武器か? けったいやなぁ」

吉田もハリセンを持つ手に力を込める。

佐藤「ノリックの武器は、そのハリセンか?」
吉田「せや(もとは須釜のにゃけど)」
佐藤「ふぅん・・・」

佐藤はじりじりと間合いを詰めていく。
吉田は佐藤の動きをじっと見ていたが、やがてダッと彼のほうに向かって駆け出した。

佐藤(今や!)

佐藤は卵水をお椀ですくって吉田に引っ掛けようとした。
しかし、

吉田「甘いでっ!」

吉田はそれを避けると、ハリセンで佐藤を叩こうとする。その一撃は佐藤に腕でガードされたが、実は吉田はそれを計算済み。
素早く逆の手で隠しておいたコショウのビンを取り出すと、佐藤に思いっきり振りかけた。

佐藤「―っくしょん! はっくしょん!」
吉田「ぼくの勝ちや、藤村!!」

吉田のペンが佐藤に伸びる!

佐藤「なめんな―――!!」


ザバァッ!!!


吉田「!!?ι な、何やこれ!? 卵くさい―――!!」
佐藤「どうや、佐藤成樹特製卵水の威力は! ノリックの生卵和えの出来あがりや。お前が持ってたコショウもかけてみよか? 味付けに」
吉田「人を食材扱いすんな!!」

コショウ攻撃にもひるまず、佐藤は吉田に卵水を頭から浴びせたのだった。おかげで、いまや吉田は全身がドロドロした液体に覆われている。
佐藤はさっと吉田に近付くと、彼の頬にペケ傷を付けた。

佐藤「あ〜あ、全部使ってもうたな。もっと色々使えると思っとったんやけど。あ、そーやノリック、このハリセンもらってくで」
吉田「もう好きにしろや。そこに落ちとるコショウもやるわ」
佐藤「すまんな。ほなな、ノリック」

佐藤は空になったバケツを置き、ハリセンとコショウを手にし、廊下の奥の方へ進んでいった。
残された吉田はと言うと・・・

吉田「うう、生臭い・・・。覚えとれよ、藤村。あとで美味い飯ぎょーさんおごらせたる!!
・・・それにしても、こないな格好じゃ3−1に戻れんな。かと言って、いつまでもうろうろしてて、姫さんに見つかるのだけは避けたいし。・・・どっか洗えるとこ探してみよか」

吉田は、身体を洗える場所を探しにその場から去っていったが、後には黄色のべたべたした液体が点々と残されており、

若菜「一馬・・・何だと思う? コレ」
真田「さぁ・・・」
若菜「前のトイレの時といい、おれらこんなXファイルばっかりだな」
真田(Xファイルて・・・俺怖くて見たことねぇよι)

若菜と真田の間で、謎を呼んでいた。


<残り11人>




2−3の教室前、三上は立ち止まっていた。
それは、その教室の戸に黒板消しがはさまれていたからだ。つまり中に入ろうとすると、黒板消しがその者の頭上に落ちる仕掛け。

三上(誰だよ・・・こんな下らねぇトラップ仕掛けたのは・・・。今時小学生でもやらねぇよ・・・。
でも、こんなもんがあるってことは、中に誰かがいるってことだよな)

三上はデビスマを浮かべ、戸に手を伸ばした。
そうして少しだけ戸を開け、黒板消しを下に落とすと、それから悠々と教室内に入っていった。
と、三上の顔めがけて、赤くて丸いものが飛んできた。
いきなりなので避けられず、まともにくらう三上。

三上「(グシャッ)うわっ!?」

キュキュキュのキュ〜。

目を閉じて視界が真っ暗になった時に、頬をペンが走った。

三上「くそ、誰だ!?」
?「俺だよ」
三上「てめぇ・・・水野!!」

顔の上で潰れた物を手で払いのけると、三上の視界に水野の姿が映った。

三上「卑怯くさい手使いやがって・・・てめぇ、よくもやってくれたな」
水野「そっちだって今まで色々やってくれたろ」

不敵に笑う水野。三上の頬には、もうペケ傷が書かれていた。

水野「何にせよあんたはこれで失格だ。じゃあな」
三上「おい、待てよ」
水野「・・・何だよ」

三上に引き止められて、水野は憮然とした顔で振り返った。

三上「お前の武器ってこれか?」

三上は自分の足元に落ちたトマトを指差した。

水野「ああ」
三上「俺の武器を教えてやろうか?」
水野「別に知りたくねぇよ」
三上「(コノヤロウ・・・)まぁ、そう言うなって」

三上はゆっくりと水野に近付いていく。

三上「俺の武器はこれ」
水野「風船? ・・・使えないな」
三上「まぁな。でも・・・」

三上は風船を差し出した手と逆の手を振り上げていた。
その手に何か赤いビンが握られている、と気付いた水野は逃げようとしたが、もう遅い。

三上「こっちは使えるんだよ!!」

もとは上原の武器だったタバスコ。それは水野の口にどぼどぼと流し込まれた。
そう、どぼどぼと。

水野「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」

そのタバスコと同じくらい真っ赤な顔になった水野は、ぼたぼたと涙を流しながら、慌てて教室を出ていった。おそらく、水を探しに行ったのだろう。
しかし三上は知っていた。この教室の一番近くにある水道が、壊れていることを。

三上「へっ、ザマーミロ」
水野「水、水、水〜〜〜〜〜〜!!!!!」

三上の仕返しにより、それからしばらくの間、水野は水道を探して走り回っていた。


<残り10人>




真田「・・・何かまた変な声してねぇ?」
若菜「本当にこんなんばっかりだな・・・」

こちらは、3階の廊下を歩いている真田と若菜。

真田「しかも、俺らってまだ誰にも会ってないんだよな」
若菜「そーなんだよな。ニアミスは多いのに」
真田「英士は何やってんだろ」
若菜「あいつのことだから、結構乗り乗りで倒しまくってたりして」
真田「あり得る」
郭「でも、まだ一人しか殺ってないんだよね」
若菜「へーそうなのか」
真田「もっと殺ってそうなのに・・・・って、ええええ英士!?」

いつのまにか、二人の会話に加わっていた郭だった。

郭「そんなに驚くことないでしょ」
若菜「い、いつから来てたんだ?」
郭「『英士は何やってんだろ』あたり」
真田「そ、そっかι」
郭「それで、一馬と結人が推測した通り、俺は乗ってるんだよね。二人とも、ここは大人しく俺にやられてくれない?」
真田&若菜「「え゛」」
郭「二人に手荒な真似はしたくないんだ、なるべくならね。抵抗しなければ、書くだけですませてあげるよ」
真田「う・・・」

あくまでも静かな郭に気圧されて、僅かに後ろに下がる真田。
若菜は逆に笑顔になって、

若菜「え、英士っ、3人で組まないか? 俺と一馬も、とりあえず協力して戦おうってことになってるんだ」
真田「そ、そーなんだよ。英士がいれば百人力だぜ!」
郭「・・・・・・」

郭は考えこんでいる。

若菜「・・・悪い、英士!」

その隙に、若菜は郭の背後に回り込み、彼を羽交い締めにした。

郭「ちょっと、結人!?」
若菜「一馬、今のうちに!」
真田「あ、ああ。英士、ごめん!」

若菜の腕の中でじたばたと暴れる郭に、真田は恐る恐るペケ傷を書いた。
それを確認すると、若菜は郭を解放した。

郭「・・・成程、こういう作戦なんだね。一人が敵を押さえてる間に、もう一人がペンで書くわけか」
真田&若菜「「申しわけありませんでしたι」」

憮然とした顔で言う郭に、真田と若菜は土下座。

郭「別にいいよ。バトルロワイアルは何でもありってルールだしね。でも、このゲームが終わったらどうなるか、覚悟しといてね(怒)」
真田&若菜((ひ、ひえ〜〜〜〜〜ιι))
真田「(こそっ)おい、結人、やっぱり英士にあの作戦は無謀だったんじゃ・・・」
若菜「(ひそっ)でも、手強い奴から倒してくのがセオリーだろ?」
郭「何こそこそ話してんの?」
真田「あ、いや、別にι」
郭「ところで、二人とも、いくらなんでもありのこのゲームでも、あんな卑怯っぽい方法で俺を倒したんだから、少しくらいペナルティを与えてもいいよね?」
若菜「え、何?」
郭「まず、二人にそれぞれ一本傷を付けさせてもらうよ」

キュポン、と英士はペンのフタを取った。

真田「それくらいなら・・・」
若菜「まあいいけど・・・」

郭は二人の頬にペンを走らせる。それぞれの左頬に、一本線が書かれた。

郭「もう一つ。二人の武器も取り上げさせてもらうよ」
若菜「え〜〜〜?」
郭「『え〜〜〜?』なんて言える立場じゃないでしょ、二人とも!」
若菜「う・・・わ、わかってるって」
真田(俺は言ってないのに怒られた・・・)
若菜「・・・まぁ、別にいいけどさ。そんなに使えるってわけでもないし」

二人が取り出した武器は、真田がナベのフタ、若菜が空のペットボトルだった。

郭「確かにそんなに使える武器ってわけじゃないね」
真田「そう言う英士の武器は何だったんだ?」
郭「スプーン」
真田「・・・使えないな」
若菜「スプーンて、スプーンおばさんじゃあるまいし」
郭「でも、山口からこれもらって(奪って)きた」

と、郭は水鉄砲を取り出す。

若菜「あ、いーな、それ。けっこー使えそう」
郭「でもあげないよ。二人には例の作戦があるでしょ。それで頑張って戦いなよ」

そう言うと、郭はスタスタと歩いていった。

若菜「・・・英士、超怒ってるよな、あれ・・・」
真田「・・・そうだな。一本傷書かれたし、武器も取られたし・・・」

ハァ〜〜〜と溜め息を付く二人。

若菜「でもっ、一馬、俺達にはあの作戦があるんだから、きっと大丈夫だぜ!」
真田「そ、そうだな! 
・・・あんまり自慢できる作戦でもないけどな・・・
若菜「それを言うなって・・・」


<残り9人>




潤慶曰く、椎名のお付きの者その1こと黒川は、1階廊下を歩いていた。
ちょうど保健室の前を通りかかった時、

黒川「う、うわっ!?」

黒川は滑って転んで廊下に尻餅をついてしまった。
そのようすを物陰から見て、ほくそ笑んでいる者が一人。杉原である。
杉原は、黒川がこちらに向かってくるのを知って、保健室前にシャボン液をぶちまけておいたのである。

黒川「痛て・・・。ん、何だこりゃ? ぬるぬるしてる・・・」
杉原「黒川くん、覚悟っ!」
黒川「! 杉原!?」

黒川が立ち上がる前に、杉原は彼に襲いかかった。
黒川の頬に伸びる魔の手。しかし黒川はその手を寸前でがしっと掴んだ。

黒川「なめた真似しやがって・・・」
杉原「君はかなり手強いからね。正攻法じゃ勝てないと思ってさ・・・」

杉原は黒川に少しずつ体重をかけていく。
不自然な体勢である黒川は当然辛く、杉原の手首を掴んでいる手から徐々に力が抜ける。

杉原「さあ、年貢の納め時だよ、黒川くん」

カッ!


杉原開眼!!
ペンが黒川の頬ぎりぎりまで近付く!

黒川「ふっ・・・ざけんなっ!!」

しかし。
黒川は杉原が自分に体重をかけているのを逆手にとって、彼の襟首を掴んで巴投げのように投げた!
背中を廊下に打ちつけられた杉原は、きゅ〜〜っと伸びてしまった。

黒川「あ、やべ・・・気絶してらι 悪いことしちまったな」

黒川は申しわけなさそうな顔をしながらも、杉原の頬にしっかりペケ傷を書いた。

黒川「こいつ、何か武器は持って・・・ないみたいだな。それじゃあ行くかな。・・・っと、」

歩を進めかけた黒川はふと足を止め、倒れている杉原のところまで戻った。そして彼を抱き上げると、保健室の中へ連れていき、ベッドに横たわらせた。

黒川「これでいいか。・・・本当に悪かったな、杉原」

黒川は眠っている杉原にそう謝ると、保健室を出ていった。
彼の足音が遠ざかっていくと、杉原はそっと目を開けた。実は、杉原は運ばれている最中に目が覚めていたのだった。

杉原「負けたよ・・・黒川くん。笛キャラで一番男前だと言われてる(←管理人調べ)だけあるね・・・」

杉原はうっすらと笑いつつ、呟いた。


<残り8人>




翼「・・・何やってんだ? お前」

縄跳びを手に何やらぶつぶつ言っている不破を翼が見つけたのは、職員室でのことだった。

不破「これが何かに使えないか考えていた。・・・当初、俺はトイレに罠を張り、やってくる者を倒していこうと思っていた。しかし、いくら待っていても誰も来ない。そこで作戦を変更し、俺の武器である縄跳びで何かできないか考察していたんだが、考察が終わらないうちにお前が来てしまった」
翼「あっそ・・・。そんな作戦立ててるってことは、お前もやる気なんだ?」
不破「それも考察中だ」
翼「は?」
不破「そもそも、このゲームを行う目的は何だ?」
翼「だから・・・優勝した奴は俺と旅行に行けるんだろ」

不本意だけどさ、と翼は続ける。

不破「わざわざこんなゲームで優勝しなくとも、ただお前を誘えばいいのではないか? 普通に告白すればすむ話だと思うのだが」
翼「・・・確かにその通りだな。でも、これは俺の推測だけど、このゲームに参加してる奴ら全員が本当に俺のこと好きだったんだとしたら、互いに牽制し合っちゃって、身動きが取れなかったんじゃないの?
それから、このゲームは玲のお遊びなんだから、目的なんて二の次で、一人で楽しんでんだよ、きっと」
不破「そうか・・・」

と、不破はまたぶつぶつと呟きはじめる。

翼「で、結局、乗るの? 乗らないの?」
不破「・・・椎名、手を出せ」
翼「手?」

いきなり何を?と思いつつ、素直に右手を差し出す翼。すると・・・


ガシャン。


翼「・・・え?」

翼のその手に手錠が掛けられた。いきなりすぎて翼が状況を飲みこめずにいる間に、不破は残った片方の輪を自分の左手に掛けてしまった。
つまり、二人は手錠で繋がれる形となったわけである。

翼「な、何すんだよっ!! つーかなんでお前手錠なんか持ってんのさ!?」
不破「はとこがかつて使った手だ。手錠で繋がれた二人が数々の危機を乗り越え、やがて二人に友情が・・・というわけだ。この場合は愛情になるか」

ふふふ、と不破は表情を変えずに笑って見せる。

翼「アホかっ!! こんなんしてたら動きにくくてしょーがないだろっ。さっさと外せよ!」
不破「断る。」

きっぱりと言い切り、不和は翼の手を引いて歩き出す。

翼「ちょっと、どこ行く気?」
不破「このまま他の参加者を倒しに行く。二人で力を合わせれば怖い者はない」

クラッシャーの不破とマシンガントークの翼。この二人が揃ったら、確かにある意味怖い者なしだろう。

翼「・・・・・・」

かと言って、いつまでもこのまま大人しくしている翼ではない。

翼「(キュッキュッ)・・・残念だったね、不破。俺の左手があいてるの、忘れてた?」
不破「・・・む」

不破の左頬には、少し歪んだ×印。

翼「利き手じゃないからあんまりうまく書けなかったけど、何にせよお前はこれで失格。分かったら、早くこの手錠外しな」

不破は憮然として、納得いかない、といった顔をする。
翼は溜め息を付いて、少し言い方を変えた。

翼「俺はお前のこと結構気に入ってるんだ。でも、これ以上したら嫌いになるよ」
不破「・・・・・・」
翼「(もう一押しっ!)俺はお前のこと嫌いになりたくないんだ。だからさ・・・この手錠、外してくれる?(にこっ)」

飛びきりの笑顔で不破を見上げて懇願する翼。流石の不破もその可愛らしさに、

不破「・・・名残惜しいが、仕方ない」

と、手錠を外した。

翼「サンキュ、不破! じゃーな」

手錠を外された翼は、脱兎の如く逃げていった。

不破「む、逃げられたか。・・・だが、まあいい。椎名の最上級の笑顔を見ることができたのだから、良しとしよう。確かに、これは役に立つな、京介」

不破は、はとこから託された手錠を見て、密かに笑みを浮かべた。


<残り7人>