Ｍｙ　ｐｒｅｔｔｙ　ｌｉｔｔｌｅ　ｄｅｖｉｌ

「酒は飲めども飲まれるな！」
・・・いつのことだったか、こんなことを言った人がいた。
しかし、その格言（？）に反して、酒に飲まれまくっている少年達がいた・・・・。

Ｍｙ　ｐｒｅｔｔｙ　ｌｉｔｔｌｅ　ｄｅｖｉｌ

時は年末、場所は椎名邸。
一体誰が言い出したのか、今となっては定かではないが、東京選抜メンバーで忘年会をすることになった。メンバー同士の親睦や交流を深めたい、という名目で。
しかし青春真っ盛りの少年達としては、皆でバカ騒ぎをしたい、というのが本音である。
翼以外の家人（玲含む）が都合よく留守ということもあって、一同は心置きなく楽しんでいた。ただ、はじめはジュースを飲んだりお菓子を食べたりして盛り上がっていたものの、やがてエスカレートしていくのがお約束というもので。
桜庭や鳴海など、悪ノリ好きな者達が、こっそり持ち込んだ酒を皆に振る舞い出したのである。
「おい、いくら何でも、酒はまずいだろ・・・」
流石はキャプテンというべきか、渋沢がたしなめるが、ハイテンションなメンバー達に、それは通じない。
それどころか、
「いいじゃないっすか、キャプテンｖ　今日は特別！　みんなで楽しみましょーよ♪」
と、藤代に酒を勧められる始末。
結局、渋沢は「少しだけだぞ・・・」と、しぶしぶ（←洒落にあらず）了解する。
そうなると、皆とどまるところを知らず、渋沢の忠告も空しく、一斉に酒を煽り始めるのだった。
そんなわけで、今、会場内は酔っ払った少年達で溢れているのである。
笑いまくっている者、騒ぎまくっている者・・・すっかり出来上がった一同が、十人十色にはしゃいでいる。そんな中で、たった一人だけ、シラフの少年がいた。
それは水野竜也。
理由は簡単。竜也は翼に、飲酒を止められていたのである。
「・・・どうして俺は、酒飲んじゃ駄目なんだよ」
竜也はジト目で、隣に座る翼を見る。
彼とて、健全な中学生男子。酒という、未知のブツに興味もある。
それに、皆が酒を帯びている中、たった一人酔っていないというのは、何とも気まずいものなのだ。
たとえ飲まずとも、酒宴の場にいると、雰囲気に圧されて楽しくなってくる・・・ということもあるが、竜也の場合は逆らしい。皆が盛り上がっている分、冷めてしまう。ただでさえ、竜也は選抜メンバーとの間にまだ溝があるから、尚更だった。
その抗議の眼差しを受けた翼は、まだほろ酔いの段階で、しっかりと意思が残っている。
ほんのりと紅く染まった顔に、にっこりと無敵な笑みを浮かべながら、彼は竜也にこう返した。
「だから、俺は竜也のためを思って言ってるんだって。慣れない酒を飲んで、急性アルコール中毒でも起こしたら大変だろ？　それに、もしこのことが玲にバレた時、お前だけ怒られずにすむんだからさっ♪」
けたけたと笑いながら、翼は新しい酒の缶に手を伸ばす。
翼の言ってることは、嘘ではないだろう。しかし、「絶対本心じゃないな・・・」と、竜也は悟っていた（たとえば皆の飲酒が玲にバレた場合、竜也も連帯責任で叱られる可能性は高い）。
何か言いたそうに、竜也は変わらず、翼をじ～～っと見続ける。
そんな彼に、翼は不意に、うるっと瞳を歪ませてみせた。そして、
「ひどい、竜也ってば、俺のこと、信じてないんだ・・・」
と、悲劇のヒロインも真っ青になるくらい、さめざめと泣き出した。
「あ、いや、そんなつもりは・・・」
当然の如く焦り出す竜也。そして、それを面白がって、続々と集まるギャラリー。
「だめだよぉ、水野くん、翼さんにひどいことしちゃあ」
「ぅわっ！？」
将がべたっと、竜也の背中に張り付いた。様子から判断すると、彼も完全に出来上がっている。
「翼さん、かわいそうでしょお～。あはははは！！」
「お前、かなり酔ってるだろ・・・」
どうやら将はかなりの笑い上戸であるらしく、常にカザスマイルで、笑い声が絶えない。おまけに、絡み酒の気もあるようで、竜也から離れない。
それを見て、翼の追及は更に続く。
「俺を捨てて、将に乗り換える気だろ・・・」
「そんなつもりは全然ないって！　大体、風祭には黒川が・・・」
「あはははは、痴話ゲンカだ、痴話ゲンカ～」
「面白がるなよ！　話をややこしくするな！　・・・おい、黒川っ、何とかしてくれっ！！」
途方にくれた竜也は、ギャラリーの中にいた黒川に助けを求めた。すると黒川は、やれやれといった様子で将を竜也からべりっと引き剥がした。
「悪いな水野・・・翼って結構、酒癖悪いんだ。飛葉の飲み会でも、よく我を忘れてるし・・・」
「そうなのか。でも、お前は飲んでてもまともそうだな。助かったよ」
とりあえず、ほっと安心する竜也。自分以外に、こんな者がいると有り難い。
「さて、行くとするか」
「え？」
足元がふらふらの将をしゃんと立たせて、その腕を掴み、歩き出す黒川に、竜也はふと振り返る。
そしてギョッとした。
何故なら黒川が、壁に一直線に向かっていたからである。その距離、約１メートル。
「わ～～～っ！！　待て待て待て～～～！！！」
「ん？　何だ？」
竜也は慌てて、黒川と将を引き戻した。竜也が止めなければ、黒川と将は確実に壁にぶつかっていただろう。
「何で止めるんだよ、水野？　これから試合だろ？」
（・・・・・駄目だ・・・黒川もちゃんとしてるよーに見えて、しっかり酔ってやがる・・・）
がっくりと肩を落とす竜也は、心の中でこっそりと、前言撤回と呟いていた。
「あっはははっ！　竜也ってば、おもしろーい！」
そんな竜也を見て、翼は可笑しそうに笑う。さっき泣いていたことなど、嘘の様だ。というか、嘘（演技）だったのだろう。
「翼、あのなぁ・・・」
酔った人間に何を言っても無駄だろうが、竜也は一応翼に向き直る。けれど、翼は竜也に待ったを掛けた。
「文句は後！　・・・それより、そろそろ頃合いじゃない？」
「？　何が？」
頃合いと言われても、ちっともぴんとこない。首を傾げる達也に、翼が勢いよく答える。
「酌だよ、酌！　お前今から、みんなに酌して来い」
全員だぞ、と翼は念押しする。
「なっ・・・何で俺がそんなこと！」
まるっきり下っ端の会社員じゃないか、と竜也はいきり立つ。親しくない奴も大勢いる・・・やりにくいことこの上ない、と竜也は思った。
心底嫌そうな顔をするが、
「竜也！」
と翼に一喝されて、びくっと身を竦ませる。
「少しでも、みんなと接せるチャンスなんだぜ？　お前は嫌かもしれないけど、早くチームに馴染むためには、このくらい当然だって」
「でも・・・」
翼のこの言葉は本気。少しも面白がっている気持ちは無い、というわけでもないけれど・・・まだどこか、チームに慣れずにいる竜也を、少しでも手助けするための。
その言葉を聞いてもぐずぐずとごねる竜也に、翼は溜息を一つ。そして、
「俺の言うこと、聞けないの？」
にっっっこり。
さっきとは一転、極上の微笑み。
「う・・・っ」
竜也は怯んだ。この顔には逆らえない。
いつもの翼にだって、逆らえやしないけれど。
「・・・わかったよ」
「ＯＫ、それでこそ竜也！　いってらっしゃいｖ」
ひらひらと手を振って見送る翼を背に、竜也は東京選抜メンバー・お酌一周の旅に出た。
その顔には、半分、諦めの表情・・・。
「・・・行ってきたぞ・・・」
しばらくして戻ってきた竜也の顔には、疲れが色濃く浮き出ていた。様々なメンバーに、あちこちで絡まれたりからかわれたりしてきたので、当たり前なのかもしれないが。
「おかえり～」
出迎える翼は、嬉しそうだが、まだ何か企んだ笑顔。竜也はとっさに、嫌な予感がする。
「まだ、何かやれと・・・？」
「あったり～♪　鳴海がね、野球拳の相手探してるんだって。竜也、行ってきてｖ」
「！！！」
嫌な予感、大的中。
「嫌だ！！　断る！！！」
プライドが高く、秘密主義な竜也。そんな彼が、野球拳などするだろうか、いや、絶対にしない。
というよりも、普通、野球拳を好きでやる者なんて、そうはいない。が、こういった酒の場では、そんな常識は通用しないのだろう。
「俺は別に、面白がって言ってるんじゃないんだぜ？　野球拳をすることにより、竜也は実は面白い奴だ、意外に親しみやすいじゃん、とゆー認識をみんなに与えよーとだな・・・」
「翼が何て言おーと、俺は絶対に嫌だ！！」
竜也は頑なに拒み続ける（そりゃそうだろう）。
すると翼はもう一度、例の表情で。
「俺の言うこと、聞けないの・・・？」
今度はうっすらとした涙のオプション付き。
「ぐっ・・・」
普段泣いたりしないだけに、翼の涙には弱い。言葉に詰まる竜也に、翼はダメ押し。
「もし竜也がやらないって言うなら・・・いいよ、俺が代わりにやるから」
「！！　そんなこと、させられるかっ！！」
すっと立ち上がって鳴海の元へ向かおうとした翼を、竜也は肩を掴んで止める。
自分が恥をかくのは当然嫌だが、翼がそんな羽目に合う＋彼のしなやかな肢体を惜しみなく周囲にさらすことになってしまうのはもっと嫌だった。
「俺が、やってくる・・・」
もう半泣き状態の竜也だったが、潔く戦場（笑）へ向かうことを決意する。
「ありがと、竜也っ、大好きｖｖ」
「はは・・・」
こんなときに言われても、嬉しいような、嬉しくないような・・・。
竜也は思わず、苦笑い。
「おっ、相手は水野か～？　まぁ、誰だって一緒か、ど～せ俺が勝つし」
すでに戦闘体制に入っている鳴海のところへ行くと、彼はにやにやと笑って挑発してくる。
二人の周りはメンバーが取り囲み、口々に騒ぎ立てている。
「素っ裸にしてやるぜ～」
（∑げっ、全裸までやる気か！？）
鳴海の言葉に竜也は動揺する。しかし同時に、やっぱり翼にやらせなくてよかった、という思いと、要は勝てばいいんだよな、という考えが浮かぶ。
「誰がお前なんかに負けるか！」
「上等だぜ！」
こうして勝負は始まった。皆の歌を背景にして。
『野～球～～す～るなら～こ～いう具合にしやしゃんせ～♪　アウト、セーフッ、よよいのよいっ！！』

　　　―――野球拳の試合の経過は、竜也のプライバシーの保護上、割愛させていただきます―――

「・・・・・・・・・・・。」
「いつまで落ち込んでんの。もうみんな寝ちゃったぜ？」
部屋の隅でいじける竜也に、翼がそっと話しかける。
彼の言葉通り、メンバー達はもう皆酔い潰れて寝ており、今起きているのは、竜也と翼だけ。
にもかかわらず、竜也は何時間か前に接戦の末負けた、野球拳のことでまだ落ち込んでいた。無理もない話だが・・・。
「ま、少しはみんなの、お前に対するイメージは変わったんじゃないかな。あれだけ飲んでたから、明日になったら忘れちゃってる可能性高いと思うけど・・・」
「・・・俺としては、忘れてくれた方が嬉しいんだが・・・」
ぼそっと竜也が漏らす。皆に忘れてもらいたいのはもちろん、竜也自身としても忘却の彼方に押しやりたい恥だ。
「あはは・・・まぁ、そーだろーね」
少しは悪かったと思ってるのか、翼が苦笑して肯定する。
食い散らかされた菓子類と、空っぽの缶の山。そして累々と寝転がるチームメイト達。どこからかは、いびきも聞こえてくる。
ロマンチックなシチュエーションとは、決して言いがたいけれど。
翼は優しく、竜也の背中に抱きついた。
「でも、今日の竜也、偉かったよ。だから・・・」
ご褒美代わりに。
頬にそっと、酒の香りが残るキスを落として。
「翼、」
「この調子で、みんなと、早く打ち解け・・・・・・」
「・・・翼？」
翼の言葉がふと途切れる。振り向くと、翼は竜也の背にもたれかかって、眠っていた。何だかんだいって、翼もかなり飲んでいたからだろう。
（・・・ったく）
竜也は微笑って溜息を漏らす。
穏やかな寝顔。
今夜は色々と振り回されたけれど、それでもやっぱり―――――。
竜也は翼を起こさないように、そっと横たわらせて、もう一度微笑って、溜息を付いた。

次の日―――
目を覚ました東京選抜メンバーは、ほとんどの者が二日酔いに苦しむこととなった。
また、運の良いことに、昨晩の竜也の例の一件を覚えていた者は、本人と翼以外、誰もいなかったそうだ。
めでたし、めでたし・・・・・？

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜ＥＮＤ＞

キリ番６６６６を踏んで下さった桧野和樹さんのリクで、「とことん翼の尻にしかれてる水野」でした。
どーにも私が水翼を書くと、水野さんが不幸な目に陥っちゃう気がします・・・。
すみません・・・。何か・・・あまりリクにそってないような・・・（滝汗）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　