―――はっきり言って。
俺、椎名翼はかなり可愛い。
普段は小柄な体とか、女みたいな顔とか、すごいコンプレックスなんだけど、時々それは有利な方へ働いたりするわけで。
たとえば、狙った奴を落とそうとする際、これ程強力な武器はない。
でも、どーにもこーにも俺の魅力が通じない、鈍感な奴がいるんだよね・・・。

そいつの名前は、水野竜也。


無敵なヴィーナス!?



都選抜チームの新フォーメーションの練習中、そのフォーメーションに参加しない俺は、タッチラインの外で水野の動きを目で追っていた。
変わらず、綺麗で正確なプレーをする。
相変わらずってのは、あいつが悩んでなければ、の話だけど。
あいつの内面の進歩の無さには、閉口する部分もある。でも、何故か放っとけなくて。直接口出ししたことは少ないけど、あいつが気になって
よく見ているうちに、好きになってた。
水野のことが好きだって自覚してからの俺の行動は速い。
さり気にあいつの側に行ったり、積極的に話してみたり。好きだってことも、何度も言ってる。
でもあいつ、ガードが固いというか、他人に対して壁を作るところがあるから、俺と距離を取ろうとする。俺がこんなに好意出してんのに。

あいつの性格からすると、手に入れたら執着するタイプだと思うから、落としちゃえばこっちのもんなんだけどね。
何せ、将にあんなにべったりしてるし、警告したのに過保護癖直って無いしさ。
あいつ、二言目には「風祭・・・」だもんな。
・・・あ、何か考えてたらムカついてきた。

「翼、どうしたんだ?」
「え?」
「すげー恐い顔になってるぞ」
横にいた柾輝が声をかけてきたんだけど、・・・俺、そんなに恐いツラしてたのか?
「何でもねーよ、ちょっとあいつのこと考えてただけ」
「ああ、水野か・・・」
柾輝は納得したように苦笑する。

柾輝は、俺が水野を好きなことを知っている。まぁ、俺からバラしたんだけど。
「まだあいつのこと落とせないのか?」
「そーだよ!  あいつの性格考えてみろよ、はっきり言って恋愛には向かねーよ」
そうなんだよ、あいつ、自分の気持ちにも、他人の気持ちにも鈍いからなぁ。俺がはっきり意志表示してるのにさ!
落とすまでが、苦難の道のり。
・・・まあ、外見が女みたいでも、男に惚れろってのが、まずあいつには無理なのかもしれないけどさ。
分かっちゃいたけど、前途多難。
「でも、好きなんだろ?」
「・・・まあな」

柾輝がからかうような口調で言うけど、確かにその通りなんだから仕方ない。
何であんな奴好きになっちゃったんだろ・・・って思うこともあるけど、好きになっちゃったもんはどうしようもない。
惚れた弱みかなぁ・・・。(ん?ちょっと違う?)
「次のフォーメーション行くわよ!」
玲がフィールドの外で待機しているメンバーに呼びかける。
俺も、一旦思考を中断して中に入った。


そんなこんなで午前中の練習が終わって、昼休み。
皆、それぞれ何人かで集まって、弁当を食べよーとしてたけど、水野はというと、案の定将と食べてた

将は時々、杉原とか小岩とかとも一緒に食べてるみたいなんだけど、そういう時水野は、どこか居心地悪そうにその輪の中に入ってる。
いい加減なじめばいいのにさ・・・。本当に人付き合い苦手な奴・・・。
ま、それはおいといて、俺は柾輝と一緒に水野と将のところに向かった。
六助には、今日はDFのグループに入ってもらってる。六助はDFの連中と結構仲良いしな。
そういうことで、俺は心置きなく水野との食事を楽しめるってわけv

「あ、翼さん、どうしたんですか?」
俺達に気付くと、将は人懐こい笑顔で問いかけてくる。
「今日はお前らと食べよーと思ってさ♪」
半ば割り込むようにして、俺は将と水野の間に入った。
水野がちょっと驚いて、怪訝そうな顔をしたけど気にしない。
で、柾輝はというと将の隣に座って、何やら話し始めてる。
羨ましいことに、実は柾輝と将はできていて、しかも行くとこまで行っちゃっているという仲でもある。
いつの間に付き合いだしたのかはよく知らないけど・・・二人の性格もあってか、案外すんなりいったらしい。
本当に、羨ましい限りだよ、まったく。
ところで、水野はというと、話し相手だった将を柾輝に取られて、何だか手持ち無沙汰な感じ。
こいつは柾輝と将のこと知ってんのかな・・・。
多分、知らないだろーな。
「ね、水野、」
「ん、何だ?」
俺が話しかけると、いきなりだったせいか、水野が少し驚いたように反応する。
「水野の弁当おいしそーv ちょっと食べてもいい?」
小首を傾げて、上目遣いで水野を見てみる。自分で言うのも何だけど、すっごく可愛らしい様子・・・なはず。
その証拠に、水野は少し赤くなって、一瞬言葉に詰まった。この反応が初々しくて可愛いv ひょっとして、こいつ、女子とも付き合ったこと
ないのか?
「・・・別にいいけど」
「サンキュ♪」
おかずのスパゲティを少しもらって、それを食べる。ん、結構いける。
「水野ってさ、スパゲティ好きなの? 確か夏の合宿の時も食ってたよな」
「まあな」
「じゃあさ、何のスパゲティが好き?」
「めんたいこスパかな」
「へー、そうなんだ」
笑って相槌を打ちながら、俺は心の中では新情報ゲット!ってな感じでガッツポーズ取ってたりした。
さて、これからがまた新たな作戦開始。
「さっきのスパゲティのお礼に、俺のおかずやるよ」
「いや、別に・・・」
「遠慮すんなって♪」
俺は自分の弁当の中のハンバーグを半分に切ってフォークを刺した。そして、
「ハイ、あーんv」
とびっきりの笑顔とともに水野に差し出した。
水野は真っ赤になって、呆気に取られた顔をしたまま固まった。
視界の隅で、柾輝が吹き出してるのと、将が目を丸くしているのが見えた。それから、鳴海をはじめとする、俺を狙ってる面々の空間が凍り
ついたのも感じた。
でもそんなことより、俺にとっては水野の反応の方が大事。さあ、どう出る、水野!?
「・・・そんなことしてもらわなくても、自分で食える」
硬直が解けた水野は、まだ顔が少し赤いままだったけど、素っ気無くそう言って俺の手からフォークを取り、そのままハンバーグを口元に
運んだ。
期待はしてなかったけどさ、あーあ、残念。
でも、さっきの反応が見れただけでも良しとするか。
「どーも。うまかったよ」
フォークを俺に返すころには、水野の顔の赤みは完全に引いていた。
けど、少し気まずそうに俺から視線を外している。
「? どしたの?」
「・・・何で、椎名は俺に構うんだよ」
目線を逸らしたまま、水野は言う。
その口振りだと、自分に構って欲しくないと言ってるみたいだ。
でも、
「いつも言ってるだろ。俺が水野のこと好きだからって」
「そんなの、理由にならな・・・」
「なるの! 好きだから構いたくなるし、こーして傍にいたいんじゃん!」
本当は、こんな場所じゃなくて、もっと静かな場所で、二人っきりの時言いたかったけど。
我ながら、すごい口説き文句。
好きになった奴を、そう簡単に諦めるなんて俺にはできない。
たとえ、どれだけ難攻不落の相手でも。
「じゃあ、何で俺なんだ? 椎名には、俺よりもっと合う奴がいるだろ? 黒川とか・・・」
「柾輝には、もう将がいるんだよ!」
「・・・え? そうなのか?」
やっぱり初耳だったらしい。
水野は驚いたように柾輝と将の方を見る。
「ま、そーゆーことだから」
と、柾輝は将の肩を掴んで抱き寄せた。
「あ、あははは〜・・・ごめんね、黙ってて。でも、何か言い出せなくて・・・」
真っ赤になった将が水野に謝る。
その様子を見て、水野はちょっと(いや、かなり?)呆然としてたけど、俺はぐいっと引っ張って、水野をこっちに向かせた。
それから、言った。
「他の奴のことはいーの!
 ・・・俺が好きなのは、水野なんだから」
しっかりと水野の目を見据えると、水野は少し赤くなって、困惑した表情を浮かべた。
「・・・じゃあ、何で俺なんだよ」
さっき言ったのと同じことを水野は言った。
そういえば、その質問には答えてなかったけど、どうしてかと訊かれても、俺自身もうまく答えられない。
いつの間にか、好きになっていたから。
でも、恋愛ってそんなもんじゃない?
「正直、俺も良く分からない。でも、人を好きになるのに理由はいらないだろ?」
「答えになってない・・・」
水野が呆れたように呟いた。脱力しているようにも見える。
「と・に・か・くっ、俺は何が何でも、お前に俺のこと好きって言わせてみせるからなっ!」
「だからっ、何でいきなりそーなるんだ!」
納得いかないといった風に声を上げる水野に、俺はにっこりと笑って言った。


「何度も言ってるだろ。
 俺が、お前のこと好きだからだよ」


憮然としたまま赤くなる水野。
でも、いーんじゃない?
少しずつでも、俺のこと意識してくれればさ。


「そんなわけで今度の休み、俺と水野と柾輝と将で、ダブルデート決定なっ」
「勝手に決めるな!」
「わぁ、面白そうだね♪」
(くくっ・・・水野もとんでもない奴に惚れられたもんだ・・・)



遅ればせながら宣戦布告。
絶対に振り向かせてみせるから。
覚悟しろよな、水野v




                                                                   <END>






いつもとは雰囲気を変えて書いてみました。
コンセプトの「翼の熱烈片思いから始まる水翼!」が示す通り、この話の翼くんは水野のことが大好きなのです(笑)
押しが強い誘い受って感じ(爆)。でも、何だか翼水っぽくなっちゃいました・・・。

2002年9月20日