We wish you were merry christmas!
今日はクリスマスイブ。
それ以上に小さなリュートとエルにとっては、母ホルンの誕生日。
何かプレゼントを贈りたい。
それは二人に共通の思いだった。
けれども王族という立場上、何より二人はまだ五歳、町に易々と買い物などには行けやしない。
「どうしよう」
「どうしようか」
スフォルツェンド城の中庭、二人だけの内緒の秘密基地。ただ小さな木に囲まれた空間だったけれど・・・・・その中に篭もって考える二人。
良い考えがなかなか浮かばない。その時。
鈍色の空から、ちらちらと落ちてきた白い色。
「・・・・雪だぁ!」
それに気づいて、常緑樹の下からリュートが飛び出してきた。エルもそれに続く。
見上げた空からは、後から後から雪が降ってくる。
「ホワイトクリスマスだね」
「うん」
吐く息も白い。暖かいローブを羽織っていても、喉の奥が凍りそうなこの寒さ。
けれどだからこそ、白い結晶が空を舞う。
「そうだ! かあさんへのプレゼント、こうしよう! あのね・・・・」
何かを思いついたらしいリュートがそっとエルに耳打ちする。
エルもリュートの案を聞いて、手をぱちんと鳴らして喜んだ。
「それはいいわ! きっと、ホルンさまもよろこぶと思うよ!」
二人はそうしてその”プレゼント”のために、雪の中で待ち続けた。
「もう、二人とも無茶するからよ・・・・」
次の日。二人は風邪で寝込んでいた。
それでも、楽しいクリスマス。
「えへへ・・・・」
ホルンに看病してもらいながら、どこか嬉しそうな二人。
枕元には、小さな雪だるま。
昨日の雪をかき集めて、二人が作った物だった。
全身を雪で濡らして顔を真っ赤にして誕生パーティへと駆け込んできたリュートとエルにホルンは驚いたが、それに構わず二人は言ったのだ。
「「お誕生日、おめでとう!」」
差し出された雪だるまを見て、ホルンは胸が熱くなった。
この小さな二人が、雪の降る寒い中で自分のために作ってくれたのかと思うと、怒る気にはなれなかった。
着飾ったドレスが汚れるのもまったく厭わず、ホルンはリュートとエルをぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう、リュート、エル」
二人は嬉しそうに笑い、そのまま風邪をこじらせてこうして寝込んでしまった。
「早く良くなりましょうね。二人が元気ないと、お母さん寂しいじゃない」
二人の額の濡れタオルを取り替えながらホルンは言う。
熱が出て具合は悪いが、それでも、普段なかなか取れない親子の時間を持つことができて、それが二人には・・・・勿論ホルンも、嬉しかった。
リュートとエルは顔を見合わせてにっこりと笑う。
枕元の雪だるま。ホルンが凍結魔法で凍らせて、温かい室温の中でも解けずにこうして置いていられる。
子どもが作ったものだから少し不恰好だが、たっぷりの気持ちが込められた贈り物。
「でも、本当にありがとうね。二人の風邪が治ったら、お母さんと三人で、少し遅めのクリスマスパーティをしましょうね」
「ほんと!?」
「やったぁ!」
ホルンの言葉に、二人とも無邪気に笑う。
そして、リュートがはた、と気付いた。
「そういえば、あれ言ってなかったね、エル」
「うん」
「あれって?」
不思議そうに首を傾げるホルンに、二人は満面の笑顔で口を揃えて。
「「メリークリスマス!」」
今日、あなたと過ごせることに感謝して。
We wish you were merry christmas!
<fin>
ひたすら無邪気な二人と、優しいホルン様。
オリハキャラで恐縮ですが、この二人の幼少期はこんな感じかな、と。
クリスマスの話〜と考えていたら、ふっとこんな三人が浮かんできました。
2004年12月23日
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