その報せを聞いたとき、頭の中が真っ白になったのを憶えています。






亡き王女のためのパヴァーヌ






「え? リュート王子が?」


魔法大国スフォルツェンドが突如魔族に侵攻され、我がスラー国も援軍を送ろうとしていた矢先に届いた悲報。
私は耳を疑った。
いや、私だけじゃない、コキュウ兄さんも、その他の兄弟も、父上も、みんな。
きっと、世界中の人達が、耳を疑ったはずだろう。
だって、その報せは。




誰よりも強く、誰よりも優しく、誰よりも人々の幸せのために戦っていた、
人類の守護神、リュート王子が戦死したという報せだったから。





それだけでも酷くショックだったけれど。
それよりも酷くショックだったのは。
リュート王子のその体と心が、魔族に奪われ、冥法王の傀儡と化してしまったという、
ごく一部の者しか知り得ない極秘事項―――。




残されたスフォルツエンドの軍隊と、近隣の国の軍隊と、
そして私達スラー聖鬼軍はただひたすらに戦い、何とか魔族を退けることができた。
平和を、取り戻すことができた。



けれど、誰よりもそれを願って戦った、あの方はいない・・・。






「どう・・・して?」



どうしてあの方が?
誰よりも強く、誰よりも優しく、誰よりも人々の幸せのために戦っていた、
そのために多くの苦しみをも背負っていたあの方が、
どうしてこれ以上傷つかなくてはいけないの?


本当は、リュート王子のような人が幸せになるべきなのに。
待ち望んでいた妹君もお生まれになったばかりだというのに。
触れ合う時間すら、ほんの僅かだったなんて。



神様、あんまりです。
どうしてあの方が、これ以上大きな十字架を背負わなくてはいけないの?


そしてそんなあの方のために、私ができることはあるの?




「リラ、お前がもし本当に、リュート王子のことを想っているのなら、
あの方の代わりに俺達が、この世界を守っていこう」


コキュウ兄さんが言った。



私達、スラー聖鬼軍の使命、それは、パンドラの箱を邪悪な者の手から守ること。
そしてそれは、世界を護ることに繋がる。


リュート王子を奪った魔族の手には、決して渡さない―――。




そしていつか、あの方を呪縛から解き放つことができるなら。




殉じよう、あの方に。
殉じよう、運命に。
あの方の遺志を継いで、この世界を護っていけるのなら、
女の身でありながら戦うことに、何のためらいもありはしない。



あの方のために、あの方の愛した、この世界や人々のために。
私は戦う。
守り続ける。すべての災厄が詰まったあの箱を。
それが、あの方には遠く及ばない、私ができるせめてものこと。




むしろそれしかできないから、だから、




それは誓いで、祈りでもあった。







                                         <END>













実際のリラちゃんとは、かなりキャラが違うと思います(爆)
でも、この話にある言葉の幾つかを彼女に言ってもらいたくて、書いてみました。
タイトルは、同名のクラシック音楽から。


2003年4月19日