どうか泣かないで。
ボクの抱いている悲しみよりも、
君がボクのことで悲しむ方が哀しいんだ。
Prayer ―祈り―
フルート。
ボクは、君がこの世に生まれてくるのを、ずっと待ち焦がれてたんだ。
君がやっと生まれて、初めてこの手で抱き締めた時、言葉にできない喜びを感じたよ。
本当は、ずっと君を見守りたかった。
君のそばにいたかったよ。
共に笑ったり、泣いたり、怒ったり。
君が成長していくのを、近くで見ていたかった。
君が苦しんでいる時に、何もできなくてごめんね。
むしろ、君が苦しむよう仕向けているのは、ベースの器となったボク自身で。
思うことしかできない自分が歯痒かった。
兄なのに、妹の君を助けられなくて。
フルート。
君を、傷付けてばかりでごめんね。心も、身体も。
でも、君がボクのことで負い目を感じる必要なんか無いんだ。
どうか自分を責めないで。君は何も悪くないのだから。
あの時、ボクがもっと強かったなら。
何度考えたことだろう。
あの時、ボクが、もっと強かったなら。
君と一緒に、兄妹として過ごせたのかな。
或いは、これから、君達と生きていけたんだろうか。
「せっかく会えたのに、こんなのって・・・!」
ボクの身体が崩れる。
君が、泣く。
ボクは思わず苦笑する。
昔から、ボクは君を泣かせてばかりだね・・・。
どうか泣かないで。
ボクの抱えていた悲しみよりも、君が悲しむことの方が、ボクにはずっと哀しいから。
君が笑ってくれていれば、それでいいから。
・・・ああ、伝えたいことがたくさんあるのに。
悔しいな。どうやらそろそろ時間切れみたいだ。
悔いはあるけど、でも後悔はしてないよ。君を守るために、自分の力を使ったことに。
あの時君を守れたから、今、こうして会えている。
たとえそれが、短い再会でも―――君に会えて、本当に良かった。
君はボクが苦しんでいると言った。傷付いていると言った。
それは、確かに事実。
己の罪に苛まれて、心の中では涙が枯れるほど泣いていたから。
でも、それ以上に。
あの国に生まれて。
母さんに愛されて育って。
ボクを慕ってくれる人達がいて。
そして君と出会うことができて。こんなボクでも、兄と呼んでくれて。
ボクは確かに、幸せだったから。
だから。
「フルート、君に・・・」
幸運と、勇気を。
ボクは本当に、もう何もできないから。
どうか君達が、この世界に平和を導けるように。
その世界で、幸せに生きていけるように。
祈るから。
ずっと、見守っているから。
ボクの大切な妹、フルートへ。
<END>
リュートの、フルートに対する最期の想い・・・を描いた作品です。
二人が、あんなに少しの間しか再会できなかったのは、私としてはとても悲しいのですが・・・。
でも、リュートはきっと、あれでも十分満足だったんだろうなと思います。
2002年 12月25日
