リュートのマル秘キルリスト
世界も平和になったある日のこと。祝宴パーティが続くスフォルツェンド城の中を、何やらぶらぶら歩いている青年がいた。
この世界を救った勇者ハーメル、その人である。
長い廊下をうろついていた彼は、ふと前方に何かが落ちているのに気付いた。ハーメルはそれを拾い上げ観察する。どうやら手帳のようだが・・・。
「面白れー、どんなこが書いてあるか見てやるか♪」
・・・おいおい。
仮にも世界を救った勇者の行動じゃないだろう。
ハーメルは喜びいさんで表紙を捲った。中表紙に律儀にも名前が書いてある。
「リュート・・・って、フルートの兄貴じゃねーか」
そう、署名されていたのはリュートの名。北の都での戦いでベースの呪縛から解き放たれ、元に戻ったこの国の王子にして、ハーメルの想い人・フルートの兄。
ハーメルは少し驚いたものの、
「へぇ。ますますどんなことが書いてあるか楽しみだぜ」
読むのをやめるつもりはないらしい。フルートが”お兄ちゃん”にべったりなのが気にくわないせいもあるだろう。
これを機に何か弱みでもつかめればと思っているようだ。
流石は元いじめられっこにしていじめっこ。そのどちらの心理も理解している。
わくわくしながらページを捲ったハーメルの目に、そこに書いてあるリュート直筆の文が映った。
が、それは、いささか不可解な文で。
リュートの☆マル秘キルリストv
・・・はい?
何だこりゃ??と思いつつも、ハーメルは先を読んでいった。
ターゲットNO.1
ベース
こいつはボクを操って散々酷いことさせてきた上、フルートと過ごすはずの時間も奪った。母さんも長年苦しめてきたし。これは本当に万死に値するよv
時間の都合上、メキドの炎の一撃で片付けちゃったけど、本当は氷縛結界で氷漬けにして、それを喰う魔法をかけてそれからさらに数多の魔法で苦しませて、ボクと母さんとフルート達への償いをさせたかったなv
そういえば、ベースの奴はボクの服を破いたし、帽子にキスさせたこともあったなぁ。何でボクがあんな奴にキスしなきゃなんないんだよ。全く、本当に嫌な奴だったな、あのヒゲオヤジ。
NO.2
ドラム
こいつはボクの愛する母国を目茶苦茶にしてくれたっけ。前にクラーリィも傷つけたしね。氷縛結界しかできなかったのは口惜しいよ。ブラッディデスイーターで生きたまま喰わせたかったなv 一度喰らいついたら最後の地獄の餓鬼魂との合わせ技でもいいかも♪
NO.3
ギータ
こいつも許せないなぁ。フルートと母さんに傷を負わせたしね。何でも切れる剣でボクの喉笛を突いたこともあったな。怪我は無かったけど、痛かったんだよね〜あれv
15年前の時は、喉を突かれて足も斬られた上、目まで潰されたし。本当好き勝手やってくれたなぁ。それで母さんがどんなに苦しんだか、わかる? 地獄の闇の渦の中に引きずり落とし吸い込む魔法でもかけたかったな。ああ、でも彼はもう地獄にいるよね、アハハv
(・・・・・・ι)
ハーメルはこの手帳を読んだことを大変後悔していた。
見てはいけないものを見てしまった気がする。
どうやらこれはリュートの怒りを買った者への恨みつらみや処刑方法(?)が記されているものらしかった。名前が書かれているのは主に魔族だったが(ヴォーカルやオル・ゴール等も記載されていた)、リュートを、というより、彼の大切な人達を、傷つけたり苦しめたりした者ばかりをピックアップしてあるあたりが彼らしい。
とにかく、見なかったことにして立ち去ろう。
と、ハーメルは手帳を閉じて廊下に置こうとしたが、閉じる前にとんでもないものを見つけてしまった。
それは、そのキルリストに載っている、彼の、すなわちハーメルの名。
NO.9
勇者ハーメル
ボク自身は彼に何かされたわけじゃ無いけどね、彼はボクの可愛いフルートにかなりひどいことしてきたよねv 何度もマリオネットネットしてフルートの寿命縮めるわ、着ぐるみ着せるわ、マヌケ踊りさせるわ・・・。いくら照れ隠しだったっていっても、これはあんまりだよ。彼には感謝してるところもあるし、ボクがまだベースだった頃、彼には結構色々なことをやったりもしたけど、それとこれとは話は別。彼にもちゃんと贖ってもらわないとね♪
さて、彼にはどんな魔法をかけようかな・・・?
「何してるの?」
びくぅっ!
突然後ろから声をかけられ、ハーメルは飛び上がって驚いた。それは、その声の主が他ならぬリュートだったから、という理由によるところも大きい。
「あ、いや、その・・・」
しどろもどろに答えるハーメルが、自分の手帳を持っていることにリュートは気付いた。
「その手帳・・・」
「あ、拾ったんスよ、さっき」
思わず体育会系の言葉使いになってしまうハーメルだった。
「それ、ボクのなんだけど、・・・中を読んだりしてないよね?」
「! よ、読んでないぜι」
にっこりと笑うリュートから凄まじいプレッシャーを感じ、ハーメルは冷汗を流す。
「そう。拾ってくれてありがとう」
いや礼なんかいいって、それじゃあ、と生返事をして、ハーメルはとりあえずその場を離れようとした。彼のキルリストに名前がある上、それを読んだことがリュートに知れたら、どんな目にあわされるかわかったもんじゃない。
さっと踵を返そうとするハーメルだったが。
「ああそうだ、後でボクの部屋に来てくれないかな。ちょっと話があるんだ」
「!」
「拒否したらどうなるか、わかってるよね?」
ゴゴゴゴゴ・・・
(やっぱり気付かれてた―――!!!)
その後。
リュートの部屋から、ハーメルの断末魔の叫び声が聞こえてきたとか何とか・・・。
ハーメル自身はその時のことを語ろうとはしなかったが、ただ、流石はスフォルツェンドの魔人だぜ、と引きつった顔で洩らしていたらしい。
終わる。
いや、これはギャグですから。怒らないでください・・・(特にリュートファンの方)
リュートがこいつらのことこんな風に恨んでたら面白いなー・・・と思ったのですι
2002年4月15日