―第三章:相似―
結局、縁は浅葱の危惧通りに風邪をこじらせ、そのあと二日間寝込んだ。
その間に気温が高めの日が続き、それなりに積もっていた雪はあっけなく溶け、その姿を消してしまった。今や建物や垣根の日陰に名残雪が僅かにあるだけだ。つくづく、雪とは儚いものである。
宗次郎はというと久々の晴れ間を素直に有り難がり、さっそく洗濯に精を出していた。
「あ〜、洗濯日和だなァ」
縁の異国風の服を物干し竿にかけながら、宗次郎は独りごちた。他の竿には、既に様々な洗濯物が、風に吹かれて揺れていた。
ようやくひと段落つき、宗次郎は着物の袂をたくしあげていた襷を取る。そうしてふう、と一つ息を吐き、改めて縁の服を見上げた。
(こうして見ると、やっぱり変わった服だな)
流石に明治も二十年以上の時が流れ、街で洋装姿の人を見かけることも珍しくなくなってきた。しかし、縁の服はまたそれとは種類が違う。藍と橙とを基調とした色相。釦の多い前合わせ。印象こそ違うものの、先だって診療所を訪れた左之助が身に着けていた、大陸由来の舶来物を思わせた。
彼のように大陸に渡った経験があったか、単に好みで身につけているのか…いずれにせよ、どちらも推測の域を出ない。
(ま、別に服が変わってるからって、どうってこともないか)
しかしそこは宗次郎、大して深くは考えない。
そもそも、彼がかつていた志々雄一派には、服装どころか、外見・能力・人物像共に変わった者が少なくなかった(宗次郎含む)。オカマさえいた。
そんなわけでちょっと引っかかりはしたが、その点についての思考はそこでお終いだった。宗次郎はタライ・洗濯板といったものを納屋に片付け、井戸に蓋をする。
ちょうどそこへ、浅葱との二人がやってきた。
「洗濯してくれてたのか。悪いな」
「いいえ、いつものことですから」
浅葱の労いの言葉に、宗次郎はにっこりと笑う。もとより、この家においてこういった家事全般が今や宗次郎の役目となっている、といっても過言ではない。そしてそれが宗次郎は全く苦ではなかった。むしろ役割があることさえ、安心を覚える。
「俺達、これから往診に行くんだ。だから、留守を頼むな」
「あれ、お二人ともなんですか。珍しいですね」
宗次郎は率直に感想を口にする。週に幾度か、彼らがこの界隈や近隣の町へと往診に出かけることはあるが、それはたいてい浅葱かが、どちらか一人であるからだ。
「あのね、往診とは別に急病人が出たそうなの。それで」
「ああ、そうだったんですね。分かりました、気をつけて行って来て下さいね」
補足したに、宗次郎は納得して頷く。穏やかな微笑みを浮かべた宗次郎に、浅葱とも笑みを向け―――そうしてふと、浅葱が厳しい目つきになった。
「…あいつのことも、頼む、な」
浅葱が示唆するのは、当然縁のことだ。元より本調子ではなかった体を長時間雪の中に晒したために、彼は高熱を出して休んでいる。自業自得だ、と浅葱も憤慨はしていたが、それでも懇切丁寧に治療は続けていた。
「あいつ自身の気持ちがどうであれ、体そのものは相当まいってるようだから無茶なことはしないと思うけど…くれぐれも無理はさせないようにな」
眉根を寄せる浅葱の表情には、複雑なものが混じる。も心配そうな面持ちだ。
本音を言えば、二人揃って出かけたくは無いのだろう。縁は確かに厄介な人種かもしれなかったが、放ってはおけない人物であることもまた確かであったから。
だからこそ、自分達がいない間は、と、宗次郎に頼む他なかった。いや、色々な意味で、頼れるのは宗次郎しかいない。
浅葱との、そこまでの気持ちを汲み取ったかどうかは定かではなかったが、宗次郎はいつも通りの笑顔であっさりと、
「はい」
と頷いた。こんな風に頼りにされて、悪い気はしなかった。
それで浅葱とも少しほっとしたのだろう、そのまま二人連れ立って、出かけて行った。
その姿を見送った後、宗次郎はふむ、と軽く曲げた人差し指の背を顎に当てた。
「さて…と」
彼のことを頼まれた以上、まずは様子を見に行ってみるべきか。そう言えば今日は、宗次郎は縁とはまだ顔を合わせてはいなかった。
宗次郎はそのまま中庭の縁側で草鞋を脱いで、家の中に戻る。そうして廊下を経由して、縁の部屋の前に立った。
まさか、また脱走してたりして。ちらりとそんな冗談めいたことが頭の中をよぎったが、宗次郎は「すみません、失礼します」と声をかけ、室内に入った。
縁は大人しく寝台の上にいて、体も素直に横たわらせていた。一瞬だけ宗次郎に目を向け、そしてすぐに視線をそらしてしまう。
宗次郎はそれを気にするふうでもなく、静かに縁の寝台に近付いていく。外の太陽の光が差し込み、今日の室内は柔らかく明るい。
「具合の方、どうですか?」
「……」
宗次郎の問いに縁は無言だ。相変わらず目を合わせないまま、口も真一文字にして開く気配は無い。
宗次郎はそれに構わずに、他愛無い調子で言葉を連ねていく。
「今日はいい天気だから、思いっきり洗濯ができましたよ。昨日はまだ、雲が多かったですからね。あ、そうそう、あなたの服も洗っておきました。所々ほつれたり破れたりしてたから、さんが後で直すって言ってましたよ」
「……」
やはり縁は何も返さない。ただ、今度は顔だけを僅かに動かし、視線が窓越しの空へと向いた。透き通って高く晴れ渡る、まだ冬の青い空。
「…雪、すっかり溶けちゃいました」
ほんの少し言外に含みを持たせて、宗次郎はそっと言葉を紡いだ。縁は相変わらず何を考えているか分からないような瞳の色で、今日は空を見つめ続けている。
あまりの反応の無さに、宗次郎は笑顔のまま小さく肩を竦めた。浅葱とに対しても縁は依然そんな態度らしかったが、それでも時々はぽつぽつと言葉をかわすこともあるという。
(これは本格的に嫌われたかな)
ふとそんなことを考えて、縁を見た。と、宗次郎は縁の額に乗せてあった手拭いがずれ落ちそうになっているのに気付く。縁の額の熱も吸っているだろうから、どちらにしても一度水につけて絞り直した方がいい。ちょうど寝台脇の棚の上には、水の張った小さめのタライも置いてある。
「すみません、手拭い冷やし直しますから、これ一旦貸して下さいね」
宗次郎は笑顔のまま、縁の額に右手を伸ばす。
すると、それまで無反応だった縁が、突然宗次郎への嫌悪感を顕わにした。目を剥き、歯を食い縛り、強い負の表情で宗次郎を睨みつけながら、その細い手首を力任せに掴む。
いきなりの縁の動きに宗次郎も対応が遅れた。右の手首を握り潰しそうな勢いで掴んでくる縁の力に内心、感心しながら、走る痛みに小さく顔をしかめた。
「……触るな」
低い、呪詛のような声で縁は言った。
縁はギリ…と宗次郎の手首を握る手に力を込める。宗次郎も手を引こうとするが、縁の力は揺るがず、そしてその掌は熱かった。これはまだ、相当に熱があるようだった。
「すみません、あの、ちょっと痛いんですけど…」
それでもそんな台詞が口をついて出てしまうあたり、やはり宗次郎だった。縁はその右手の力を緩めないままで、左手を寝台についてゆっくりと身を起こした。額から例の手拭いが、はらりと滑り落ちる。その間も宗次郎を睨みつけるのは変わらない。
ただ、宗次郎はあれ、と気が付いた。微かにだが、焦点が合っていない。そしてこの、手から伝わる熱。
「あの、無理しない方がいいですよ。浅葱さんからもそう言われてますし、あなた、かなりの熱が…」
「触るなァっ!!!」
懲りずに今度は直に縁の体温を推し量ろうとした宗次郎の左手を、縁は思いっきり振り払った。そのまま宗次郎の右手をも投げるように突き放す。
宗次郎は目を丸くしたままで、痛みの残る左手で右の手首を撫でた。そこもまた痛むが、普通に動く。大丈夫そうだった。けれど、あのまま握られ続けていたら、骨が折れていたかも分からない。それほどまでに彼の膂力は凄まじかった。
その縁は荒い呼吸を繰り返したままで、己の左の耳元を強く押さえていた。そう言えば、と宗次郎は思い出した。浅葱とが、縁は左耳の外部と内部に古い深い傷があると言っていた。左耳はおそらく、もうほとんど聞こえていないだろう、とも。
もしかしたら体の熱と連鎖するようにその古傷も熱を持ち、その痛みが彼を蝕んでいるのかもしれなかった。しかし、宗次郎にはどうしたらいいのか分からない。
「とりあえず、まだ寝てた方がいいですよ。ね?」
ひとまず彼には触れないようにして、どこまでもにこやかに宗次郎は声をかけた。
縁は毛を逆立てた猫のようにフーッフーッと息を吐き出していたが、そこでまた宗次郎へと目を向けた。
それは、宗次郎ですら一瞬動きが止まるような―――狂気と殺気に彩られた双眸だった。
「…ットウサイ…」
押し殺したような響きが縁の口から漏れた。その文字列の示すものの意に宗次郎は気付かず、縁が鋭く伸ばした両腕も避けきれなかった。縁は宗次郎の胸倉を掴んだまま、寝台から降りゆらりと立ち上がった。
その狂気めいた焦点の合わない瞳が宗次郎を射抜く。それを受けて呆気に取られている間に縁はそのまま大幅で歩を進め、部屋の壁に宗次郎を強く押しつけた。
胸元の縁の手がシャツを掴み上げ、軽く酸欠のような状態になりながらも、宗次郎はあくまでも穏やかに言葉を紡いだ。
「どうしたんですか、いきなり…ッ。もしかして僕、昔あなたに何かしました?」
いささか自信の無い響きなのは、宗次郎自身に縁と会った覚えが無いからだ。もし過去に出逢っていたら、こんなふうに外見の目立つこの男を、忘れる筈が無い。
それでも過去に犯した罪がどこかで、この男と繋がっているのだとしたら。
けれど、宗次郎のその考えは、縁によって覆されることとなる。縁は宗次郎の動きを変わらずに押さえ付けながら、叫ぶようにこう言った。
「貴様の存在が、気に食わない…!!」
すぐ目の前にある縁の顔が、どす黒い怒りと憎悪で支配された。
「何故、何故アイツも、貴様も! のうのうと『次』を見つけて、平穏に暮らして…!」
咆哮のような縁の言葉は宗次郎に向けられていた。しかし、宗次郎は知らなかった。
揺らぐ負の光を宿した縁の瞳、それは確かに宗次郎に向かっている。けれど彼は、宗次郎と重ねて、もっと遠い何かを、誰か別の人間の姿を見ている、ということを。
(縁さん、熱に浮かされて、ちょっと錯乱してるみたいだ…)
自分へ向けられる狂の色をした嫌悪感も、おそらくはそれにより増幅されている。縁の言っている事の正否はともかく、熱に支配された正常でない思考回路で、けれど確かに怒りを宗次郎へとぶつけている。
「貴様も、血の臭いがする癖に…ッ。どうしてそんなに、ヘラヘラと笑っていられる!!」
怒鳴るでもなく叫ぶのでもなく、縁はただ吠えた。胸倉を締め上げる力が増し、宗次郎も小さく息を漏らした。
いずれにせよ、このままではお互いに埒が明かない。まずは宗次郎は拘束からの脱出を試みて掌で縁の胸板を押すが、びくともしない。
ならばと足首を蹴り払おうとしたが、しかしそれが決まるよりも早く縁はその反抗に気付き、宗次郎の胸倉を掴みあげると投げ技の如く彼の体を宙に浮かせた。そのまま力任せに床に叩きつける。宗次郎は咄嗟に受け身を取っていたから大事には至らなかったが、それでも背中が酷く痛むことに変わりは無い。
間髪入れず、縁が宗次郎にのしかかってきた。そのまま首に手を伸ばし、絞め殺さんばかりに両の手に力を込める。
「……ッ!」
流石の宗次郎も、苦しさに顔を歪めた。何とかその手を引き剥がそうとするも、縁の力は揺らがない。正気を欠くことで限界を超えた力に、成す術もなく翻弄されていた。単純な腕力で言えば、宗次郎より縁の方が上だった。
(まずい…このままじゃ、)
刀があれば。
そう思わずにはいられなかった。
気道が圧迫され呼吸すらままならないこの状況下で、長らく強さと刀を頼りに生きてきた宗次郎がそう思ってしまったのは至極当然だった。生憎と、愛刀の天衣は自室に置いたままで、今の宗次郎は丸腰だった。
刀さえあれば。
(…っ、でも、)
目も眩む視界の中、宗次郎は思い返す。自分は浅葱とに、彼を頼まれたのではなかったか。ならば刀で彼を傷つけてまでして制することは、彼らの本意ではないだろう。
それでも、彼の暴走をどうにかして止めなければ、宗次郎自身の身が危うい。
宗次郎は右足に意識を集中させると、そろりと膝を曲げた。そうして今度は、足の裏で縁を思いっきり蹴り飛ばす。
強靭な脚力を誇る宗次郎の足での一撃は、それゆえに攻撃力もまた高かった。縁は呻き声を上げて宗次郎からようやく手を離す。宗次郎はその隙を逃さず、もう一発、蹴りを腹にお見舞いしてやった。縁は床に崩れ落ち、宗次郎は息苦しさから解放されたことで盛大に咳込んだ。
それでも縁は身を起こすと、獲物に襲いかかる虎の如く宗次郎に強襲をかけてきた。引き裂かんばかりに鋭い指先で、けれど宗次郎は迎撃する形で今度は縁の顔に横から蹴りを食らわせる。
右頬の側に思い切り蹴撃を受けたこととなった縁は、勢いのまま吹っ飛び壁に激突した。木の壁がひしゃげるような音がし、亀裂が幾重にも走った。縁がそれでやっと動きを鈍らせたのを見て、宗次郎はすかさずあの水入りのタライを持ってくると、その頭上から思いっきり浴びせた。
すっかり濡れ鼠となった縁は、長く白い前髪から水滴を垂らしながら、まだ忌々しそうに宗次郎を見上げた。
「少しは頭、冷えました?」
にっこりと笑う宗次郎に悪意は無い。ただ単に、興奮した頭を冷やすには、文字通りにするしかない、と咄嗟に判断したためでもある。
もしかしたら風邪は悪化するかもしれなかったが、この際それは仕方無い。
「あー痛かった。あなた、相当に強いですね。ちょっと危なかったなぁ」
つい先程まで締め付けられていた首元に手をやりながら、宗次郎は事もなげにそう言った。殺されかけたのにもかかわらず、ちょっと危ないで済ませてしまうあたり、やはり何かがズレている。
(それにしても、縁さん、少し気になること言ってたな)
誰かに憎まれるのは今に始まったことではないが、それにしては今までに受けたものと種類が違うのが引っ掛かった。
―――何故、何故アイツも、貴様も! のうのうと『次』を見つけて、平穏に暮らして…!―――
縁の言う『アイツ』とは、彼にとってはどんな存在であるのだろう。
縁の素性も過去も何も知らない宗次郎には考えても分かるはずもなかったが、誰かが自分と似ている、それだけは間違いないようだ。だからこそその人物と宗次郎を重ね合わせ、こうも取り乱したのでは。
それにしては、暴走するにも程があるが。
(それに、僕のことを血の臭いがする、って言ってたけど、)
それは、縁と出逢ったその日にも言われたことだった。
けれど、錯乱したとはいえ躊躇うことなく人の首に手をかけた。命を奪おうとすることに迷いが無かった。縁のその事実、そして宗次郎の体に染みついた、常人ではまず勘付かぬ程の人の死を嗅ぎ取れたということは、恐らく、
(この人も、多分、)
―――彼もまた、同じ穴の狢なのだ。
宗次郎がそんなことを取りとめもなく考えていた間、縁は動く気配は無かった。ただ、まだ例の澱んだ表情で、歯噛みするように宗次郎を見ている。とりあえず、反撃する元気は失せたようだが―――と。
「…何なんだ、これは」
苦虫を噛み潰したような第三者の声が聞こえ、宗次郎も縁も反射的に顔をそちらに向けた。
部屋の入口に、浅葱がその苦虫を…の比喩そのままのような顔をして突っ立っている。
「あー…、と」
まるで悪戯をしたのを見つかった子どものような顔になって、宗次郎はいささか気まずそうに笑った。
「随分お早いお帰りですね、浅葱さん」
「忘れ物したのに気付いたから戻ってきたんだよ。そしたら…」
頬を引き攣らせた浅葱は皆まで言わなかったが、宗次郎には察しが付いた。
おそらく、診療所に戻ってきた浅葱は、縁の部屋がドタンバタンと騒がしいのに気が付いた。慌てて何事かと駆けつけ、この現場に出くわしたのだろう。
しかし、すべてを見ていたわけではないらしい。
「…宗次郎。俺、こいつのこと頼むって言ったよな…?」
浅葱のその口調からは静かな怒りが滲み出ている。口元が笑っているのが逆に怖い。
「この惨状は、どういうことだ…?」
「ええと、あの、これはですね…」
言い訳を探す宗次郎だったが、部屋の中を見回して思い直す。
ヒビの入った壁及び床板。空になって転がるタライ。水の行き先はというと縁の体で、高熱を出して休んでいる筈の人間が水浸しになっている。その彼の右頬は赤く腫れ上がり、口の中を切りでもしたのか、唇の端から血を流している有様だ。
一連の流れを知らない浅葱からして見れば、どう考えてもこの状況は宗次郎に非がある。
頼むと言って出掛けた矢先にこういった事態になっているのでは、一体どういうことだと問い詰めたいのも無理もない。
にじり寄る浅葱に、宗次郎はへらっとした笑みを浮かべた。いつぞやの新月村で刀を壊された時の如く、あっさりと答える。
「僕が悪いんじゃありませんよ。怒るなら縁さんを、」
「お前な…重病人のせいにする気か?」
浅葱の顔が更に険しくなった。どうやら地雷を踏んだらしい。
「えーと、話せば長くなるんですけど…ちょっと、縁さんも何とか言って下さいよ」
宗次郎が助けを求めるように縁を見ると、彼は壁に背を預ける姿勢でうなだれて、その表情は窺い知れなかった。ただ、息が上がっているのだけは分かる。
「! 大丈夫か?」
浅葱が縁に近付き、その様子をじっと見る。それから額に手を翳した。そして気遣わしげに言う。
「また熱が上がってるみたいだな…立てるか? まずは着替えないとだな」
こうさせた張本人らしい宗次郎を浅葱はぎろっと睨む。宗次郎はただ笑って小さくなるしかない。
「何でこんなことになったか、後でたっぷり聞かせて貰うからな」
こうして、縁の介抱を終えた後、宗次郎は浅葱からお説教を受ける羽目になった。それは宗次郎の誤解が解けるまで、やや理不尽に続いたのだった。
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