―序章―
その時に限って、は故郷を離れ別のリージョンにいた。
それが彼女の幸運であり、不運でもあった。
彼女の出身リージョンはワカツ。
剣技の里として知られ、仁義と忠義の心溢れる独自の文明を誇ったリージョンだった。
人と人との絆も深く、縦と横の繋がりを大切にする人情に満ちた場所。
はそんな故郷が大好きだったし、父も母もワカツに息衝くすべての者達が大切だった。
それなのに。
崩壊は、いとも容易く告げられた。
「ワカツはトリニティに対する反逆罪により、本日同組織によって滅ぼされました。リージョン中心部は壊滅状態、生き残った人間もほぼゼロに等しいとのことです。
嘘だ、何を言っているのこの人は。
ワカツが滅ぼされた?
反逆罪で? そんなことしていないのに何故!?
「どうして・・・!? ワカツのみんなは、反逆なんて企むような人達じゃない!」
「そう言われましても。トリニティの命令は絶対ですから」
「きっと何かの間違いよ! お願いだからシップを出して! お願い!」
嘘だ嘘だ。こんなこと、信じられるものか。
ワカツが滅ぼされなければならない理由なんてない。反逆なんて事実、ある筈無い。
きっと何かの言いがかりだ。だったら、自分も一緒に戦いたい。ワカツを守るため、きっとみんなも戦っているんだろうから。
だから、お願いだから、どうかどうかシップを出して!!
「ですから、先程も申し上げましたように、未だトリニティによる攻撃が続いていて危険なので、ワカツへのシップは走行できませ―――」
「何故! 私はワカツの人間よ! シップを出して! お父さんもお母さんもまだそこに・・・!」
嫌だ私も戦うんだ。お父さんお母さんを助けなければ。みんなも、きっとまだ生きてる。生きて必死の抵抗を続けてる、だから私も、私も、どうか!
「お願い、シップを出して・・・・!」
の涙ながらの必死の懇願に、クーロンのシップ発着場職員は、苦渋の表情で首を横に振った。
「申し訳ありません。シップは運航できません」
その瞬間、彼女の故郷は彼女にとって真実無くなったも同然だった。
混沌の中に点在する多くのリージョンの中で、大きなうねりのようなものがゆっくりと、しかし確実に動き出していた。
それに翻弄される者は少なくなく、幾人もの人間が新たなる出立の時を迎えていた。
そしてそれは、もまた。
ある者は突然家族を奪われた怒りを抱いて、
ある者は自身の数奇な運命に逆らうように、
ある者は未知の世界に飛び出す好奇心で胸をいっぱいにして、
またある者は目的を果たすという揺るぎ無い信念を秘めて。
世界のあちこちで、様々な者がそれぞれのリージョンを旅立っていた。
そうして、今―――
彼女の旅は、絶望から始まる。
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