※双子絵茶会2013から派生したネタ。
ブルーが本当に酷いことになっていますので、ブルーを本気で好きな方は読まないことをお勧めします。
half naked
冷たい風が辺りに吹き荒ぶ。
纏めていない銀の髪がふわりと靡いて、ルージュは片手で押さえ付けた。どうにも言い表しがたいこの緊張感と、高揚感。
もうすぐ、双子の片割れに会える。母の胎内では一緒だった筈なのに、その後ずっと分け隔てられて生きてきた己の半身。
白く輝く月がまるで審判のように決闘場を見下ろす。殺風景な岩山でも、命を削り合う舞台にはむしろ、相応しかったかもしれなかった。
(ブルー…)
瞼を下ろし、ルージュはその人に思いを馳せる。
陰陽、秘印、そして時空……彼もまた自分と同じように、それらすべての術の資質を手に入れている筈だった。その道程は苦労の連続だったが、そのおかげで強力な力を入手できたと言ってもいい。
そして、気の置けない仲間達もまた……彼らと協力し、時に共に困難を乗り越え、時に共に強大な敵を打ち倒し、そうしてきたことで何よりもかけがえのないものを得た。術の資質と同等、或いはそれ以上に大切なもの。
ブルーもそうなんだろうか。
だとしても、負けるわけにはいかない、とルージュは決意を新たにする。負けるな、と送り出してくれた仲間達の為にも、自分自身の為にも。
「ルージュ」
自分と同じような、しかしそれよりも低い響きが耳朶を打つ。ああ、とルージュは嘆息した。ついに来たのだ、この時が。
ルージュは目を開いた。現れた宿命の相手、ブルーに向き直る。
真剣な筈だった顔はしかし、ぴしり、と音を立てて硬直した。
「ブ、ブルー……?」
本当にあなたは僕の兄のブルーですよね、本当の本当にあなたは僕の兄のブルーさんですよね、という気持ちの籠った、疑問形の呼びかけだった。
成程、確かに顔立ちは良く似ている。しかし対決の場に現れたブルーは、半裸だった。
それだけならまだ良かった。
褌だ。こともあろうに褌である。下半身と上半身の法衣はどうした。
けれど何よりもまずルージュが目を疑ったのは、剥き出しにされたブルーの肉体ことごとくに素晴らしい筋肉が付いていたことによる。
腕も上半身も太腿もムキムキしている。マッチョだ。紛うかたなきマッチョだ。みなさーん、ここにマッチョがいまーす、と思わずルージュが現実逃避をしかけたくらい、実に素晴らしい肉体美だった。今のブルーを目の前にすれば、きっとあのゲンさんだって裸足で逃げ出す。その位の鍛えぶりだった。
「どうした、ルージュ。さっさと対決を始めるぞ」
ルージュの動揺には一向に構わず、ブルーは戦闘開始する気満々である。月明かりに映える見事な肉体。
おいやめろ。ポージングをするな。
「あの、ブルー」
「何だ」
「一ついいかな」
「用件は手短にすませろ」
やっと双子の片割れに会えた感傷だとか、宿敵を目の前にした敵愾心だとかはもうルージュには微塵もない。そんなものを一気に吹き飛ばすほどの衝撃だった。マッチョのブルー。しかも半裸。むしろほぼ全裸。
「僕達は、完璧な術士を目指して旅立った筈…だよね」
「今更何を言う」
「じゃあ、その体はどういうことかな…?」
何だか卑猥な質問な気もしなくもないが、他に訊きようがない。「ああこれか」とブルーは事もなげに言って肩と二の腕の筋肉を隆々と持ち上げて握り拳を作ってみせた。
何だそれは、STRほぼ初期値の僕に対する嫌がらせか?
「剣術や体術もやってみると面白くてな。その結果が、これだ」
はいそうですか、とルージュは頷くしかなかった。
脱力するルージュを尻目に、ブルーはムキムキっとあちこちの筋肉を躍動させてみせる。胸筋までぴくぴく動いているのだから大したものだ。
剣技や体術を極めるのは良い。その結果、体全体に筋肉が付くのもごく当然のことだろう。それはそれでいいとして……
だ か ら 何 故 半 裸 な ん だ。
(鍛えるのは構わないけどせめて服着て来てよね…)
これが自分の半身か、と何だか情けなくなってくる。今までの僕の悲壮な覚悟は何だったんだ、と。
しかしいつまでもこのことばかりを意識しているわけにもいかない。ルージュは気を取り直すと、両の掌に魔力を集め始めた。途中、思わずブルーを見てしまってそのたびに強制的に目に飛び込んでくる筋肉美に集中力が途切れそうになったが、何とか一つ目の術を練り上げた。
「行くよ、ブルー!」
とにかくもう無理やりにでも戦いに持ち込んで、この空気を払拭するしかない。先手必勝、とばかりにルージュはエナジーチェーンを繰り出した。掌から放たれた魔力の鎖がブルーを拘束する。が、ブルーはふんぬっとばかりに両腕を広げ、力技でエナジーチェーンから逃れる。
「やるな」
にや、とブルーが笑んだ。ブルーも自身に魔力を集結させ始める。
昂ぶっていく魔力の質にルージュは身構えた。これは、相当に強力な術が来る…!
「フラッシュファイアぁぁぁぁ!!」
ブルーから眩い光の奔流が迸る。凄まじい熱量と光の洪水……しかしルージュが衝撃を受けたのは、その術の威力にではない。出所にだ。
乳首だ!
ブルーの両の乳首が光っている。そりゃもうこの上ないくらいに光っている。どうにも術は乳首から生み出されているらしい。
だから何 故 乳 首。
よりにもよって発動元は乳首とか、もうね。金色の光の隙間から見えた乳首がまた無駄に良い色をしているのが、尚更腹が立つ。
顔の前で腕を交差するようにしてルージュはフラッシュファイアに耐えた。焦がされた部分がちりちりと痛む。反撃を、と体勢を立て直して術を組み上げようとして、しかしまたブルーの乳首に目が行ってしまいルージュはぎょっとした。
術の余韻なのか、乳首はまだ光っている。黄色に光っている。ああやっぱり術は乳首から出るのか。今度は赤く光り出した。ちかちかと点滅している。赤ってことは何か、ヴァーミリオンサンズでも出すのか。術に対応して輝くなんて大層器用な乳首だ。じゃあ、もし(相反する系統だから無理だけれど)ダークスフィアとかだったら黒く光るのか。黒光りするのか。
あまりにも馬鹿馬鹿しくて、ルージュは馬鹿馬鹿しいことを大真面目に思案してしまう。
そんなことを考えている間にも、やっぱりブルーの乳首は爛々と光っている。ここでルージュはついにプッツンした。
「…ああもう! 信じられないよ君! 何で術が乳首から出るのさ!?」
「修行の賜物だ」
「一体どんな修行だよ!! だからそこで何で乳首なんだよ!!」
「便利だぞ。服を着ない分身軽だし、術で攻撃している間、両手両足は自由だからな。その後すぐに敵に技をかけられる」
「………」
そんな効率の良さはいらん。
「………帰る」
もうやってられるか、とばかりにルージュはくるりと踵を返した。一人大真面目にやっていたことが心底アホらしくなった。「怖気づいたか、ルージュ!」とか後ろからブルーの声がするが知ったこっちゃない。どうせ光ってるんだろ、乳首。
「待ちたまえ!」
突如聞こえてきた第三者の声に、ルージュは渋々、といった風に振り向いた。ブルーの背後の崖をよじ登るようにして新手が現れた。どうやらブルーの仲間らしい。
艶めいた長い黒髪をたなびかせた、眼鏡をかけた端正な顔立ちの男だ。雰囲気からして妖魔のようだったが、一見すると医者、といった様相だった。
一見すると。
「ブルーはこの日の為に腕を磨いてきたんだ。それなのに突然帰るだなんて、薄情だとは思わないのかね」
薄情も何も、帰るには帰るだけの理由があるのだが。
ルージュが冷ややかな目でその妖魔―――ヌサカーンを見ていると、その白衣が風に煽られて、ばさり、とはためいた。
白衣の下には何も着ていなかった。まさかの素肌に白衣である。妖魔らしく青白い肌だったが、引き締まっていてこちらは程良い筋肉である。しかし、だから何故そこでわざわざ露出する。
半裸に白衣、ある意味最強の組み合わせだ。プラス眼鏡とくればもう怖いものは無い。ヌサカーンの妖艶な雰囲気が、尚のこと『変態』という二文字を醸し出している。お巡りさんこの人です。
この場合、下半身は衣服を纏っていたのはまだマシだったろうか。
「勝負を放棄して逃げるのはうんたらかんたら〜」
ヌサカーンの穏やかな力説を、ルージュは右から左へと華麗に受け流した。
……仲間までこんななのか。
こっちの仲間を連れてこなくて良かった、とルージュは思った。僕の仲間達にはこんなのがいなくて本っっっっっ当に良かった、心の底から思った。
「……さぁ、帰ろう」
ふ、と力無い笑みを浮かべてルージュは呟いた。
レッドもリュートも心配してるだろうしなぁ、もうこっちのことはどーでもいいから早くブラッククロスとモンドを締めよう、そんな気持ちでゲートの術を唱え始めた。「逃げるのか卑怯者」「もう少しブルーに付き合ってやってくれないか、ルージュ君」知るか。
……そーいえば、ブルーの場合、ゲートを使ったら乳首から溢れ出た魔力が彼の仲間達を包むのだろうか。仄かに温かかったりしたら嫌過ぎる。
ふとそんなことを考えて、ルージュは少し、ブルーの仲間に同情した。
END
双子祭り2013後夜祭チャットの会話の中から生まれたブルー半裸+tkb話。tkbをこんなに連呼したのは初めてだw
勢いで書きました。書いてる途中でルージュが気の毒になった。
2013,7,21
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