ここは、剣技と体術の王国、スキルキングダム(←センス皆無)。
この国では、古来より続く慣習がある。
成人後、外のリージョンに出て剣技や体術を極めることが、スキルキングダムで生まれた者の運命。
また、この国では双子の誕生率が高く、例外なく素晴らしい素質を秘めている。
しかし、決して完成することは無い。
そう、双子の片割れを殺すまでは・・・。





If 〜もしも・・・〜





行きなさい

技を閃き 力を付け そして

ルージュを殺せ!!





「ふふ・・・ついにこの日が来た・・・」
今日は年に一度の技士修了式。
唯一の今期修了者は、聖堂の出口へと向かいながら、学院の校長の言葉を頭の中で反芻している。
この青年、名をブルーといった。
その名の通りの蒼い瞳、太陽の光に煌めくすけるような金の髪、思わず見惚れてしまうような美貌を持っているのに、その顔に浮かべているのは、どこか腹黒い笑みで。
「待っていろルージュ・・・! 一刻も早く技を極め、貴様を殺し、完全な技士となってやる!!」
顔に似つかわしくない物騒な言葉を吐き、ははははと高笑いをあげる。
彼の言う、ルージュというのは彼の片割れ。ブルーの卒業した学院の裏の存在に当たる学院に在籍していて、同じく今日、終了の日を迎えたらしい。
キングダムは、二人の不完全な技士より、一人の完全な技士を求めている。そしてそれを目指して、少年少女たちは修行を積むのだ。すべてはキングダムのため。キングダムは、絶対的な存在。
ブルーもそんな一人で、完全な技士となることを強く望んでいた。
そのためには、どんなことをしても構わない。双子の兄弟を殺すことも、キングダムに双子として生まれたからには当然のこと。
そしてそれがキングダムの教えなのだから。
「よし、行くか」
旅支度を終え、ブルーはシップ発着場に向かう。
(まずはどこへ行くか・・・いや、それよりも、剣と体術、どちらを極めるか?)
考えにふけるブルー。
双子は、どちらか剣技と体術のどちらか片方しか習得できない(加えて銃技も覚えられるが、キングダムはそれは肉体的なものではないと、あまり歓迎しない)。
そして、二人のうち先に閃いた方がその系統を極める権利を持つ。
つまり。
ブルーがルージュより先に剣技を閃いた場合、ブルーは剣技、ルージュは体術となる。
逆に、ルージュが先に剣技を閃いた場合、ブルーは強制的に体術しか極められなくなる。
この論理は、体術の場合も、然り。
自分が極めたいものを相手より先に閃かねばならないので、ある意味これは相手との早さ比べともなる。
そして、互いにその系統の技を極めたときが対決の時。
勝った方は、相手の覚えた技すべてを吸収することができ、自分が習得した技と合わせて、完全な技士となることができる。
(とりあえずクーロンへ行こう。あそこから、様々な場所へ行けるしな・・・)
一番多くのリージョンへ行けるクーロンを最初の目的地へと据えたブルー。
彼の旅はここから始まる。




そんなわけで、ブルーはクーロンへとやって来た。
裏通りの刀剣屋でサムライソードを購入。
どうやら、剣技にすることにしたらしい。
技の数が多く、全体攻撃技もあるからだろう。
(そうだ、ワカツへ行こう。あそこは剣技使いのリージョンだ)
発着場へ戻ろうとしたブルーは思った。
ワカツは、剣技のことに関しては、スキルキングダム以上のリージョンだ。そこへ行けば、早く技を覚えられる、とブルーは考えた。
しかし。
「ワカツですか・・・どうしましょう、主任?」
ワカツに行きたいことをリージョン発着場の係員に告げると、何故か彼は顔を曇らせた。
?とブルーが思っていると。
「ワカツにお出でになられたいなら、最低でも一人、ワカツの方をお連れ下さい。ワカツには亡霊がはびこっておりまして、ワカツの方でないと安全でないようです。」
「ちょっと待て・・・亡霊というのは、どういうことだ?」
主任、と呼ばれた人物の言葉をブルーは聞きとがめた。すると、主任は声を潜めて言った。
「ご存じないんですか? ワカツは数年前、トリニティに滅ぼされたんですよ」
「何いぃぃっ!!? トリニティに滅ぼされただとぅ!!!?」
あまりの驚きに、ブルーは大声で聞き返す。
「一体どういう了見でトリニティのアホ共は・・・むがっ」
「「大声を上げないでください!!!」」
係員と主任は慌てて彼の口を塞いだ。
スキルキングダムは閉鎖的なリージョンで、外界の情報もあまり入ってこないので、彼が知らないのは無理もないことだったが。
こんなことをトリニティの役人に聞かれたら、確実にブルーは処刑される。
「ちっ・・・では、ワカツはもういい」
ブルーは小さく舌打ちした。彼にとって、滅びたリージョンなど意味はないようだ。
情報収集しろよ・・・。
「ならば、どこかレベル上げに最適のリージョンはないか。タダの宿屋があり、強い敵がうぞうぞ出て来るダンジョンも存在するリージョンがいい」
宿屋なんて、金払ってもたかが10クレジットなのに、ケチ臭いブルーだった。
「その条件なら・・・シュライクがいいと思われます。済王・武王の古墳はアイテムもございますし、生命科学研究所はレベル上げのメッカ!」
ただし敵のレベルは高いので気をつけてくださいね、と念を押すシップ係員の声を背にブルーはシップに乗り込んだ。
「ふん・・・技はまだなくとも、キングダムで長年鍛えてきたこの俺がそう簡単に負ける訳がなかろう」
鼻で笑うブルー。
しばらくシップでくつろいでいると、そのうちシュライクに到達した。




シュライクは緑がいっぱいに広がる、自然な豊かなリージョンである。
一方で、近代的な町並みも広がっている。
(まずは生命科学研究所とやらに行くか・・・)
シップ係員の言葉を思い出し、生命科学研究所に向かうブルーだった。
いきなり生科研に行くとは、流石ブルー。
しかし、一人パーティで初っ端からそんなことをしたら、普通すぐにオープニング場面に戻されるのがオチである。
大方の方は、ここでオチが読めたと思われる。
「私はただ、真実が知りたかったのだ」
ブルーが入り口付近にいる研究員に話しかけたとたん、その研究員は魔物の姿へと変貌した。
「げっっ!?」
その魔物は、植物系ランク3の敵、マンドレイク。
慌てて体勢を立て直し、サムライソードで攻撃を仕掛けるブルーだったが、致命傷を与えるまでに至らない。
たじろぐブルーに、マンドレイクはにやりと笑って、『スクリーム』を繰り出した。
精霊銀シリーズを装備していなかったブルーは、あっさり撃沈。
「くっ、くそっ・・・いったん退却だ!!」
LPを削られて、命からがら逃げ出すブルー。
町の宿屋へ行き休息を取ると、今度は南西の方角へ向かう。目的地は武王の古墳だ。
「先ほどは不覚を取ったが、今度はそうは行かんぞ」
独りごちて、武王の古墳の中に入るブルー。入ってすぐの別れ道に立っている男が言った。
「俺は勝利のルーンを取りに来たんだ」
「ルーン? 印術のことか。術には興味ないな」
術に興味はない、と言い切るブルーなんて、おそらくこの小説でしか読めないだろう(爆)。
技と術を同時に装備すると達人になれないので、スキルキングダムでは術の使用は認められていないのだ。
その男を一瞥すると、ブルーは右の道へと進んだ。行き止まりに看板が立っている。『危険!』と記されていた。
「虎穴に入らずんば虎児を得ずだ。行こう。
・・・ん? 入れん・・・」
バリケードを破って入ろうとするが、何故かどうしても入れない。
理由は、彼がルーンの小石を持っていないからだった。それが古墳の奥深くまで進む鍵なのである。
「くそっ!」
何度やっても無理なので、ブルーは中に入るのを諦めた模様。すごすごと入り口へと戻る。
(あの係員め〜・・・何がレベル上げに最適のリージョンだ)
怒りマークをびっしりと浮かべながら、ブルーは市街地へ向かった。
確か本屋があったはず。人の意見は信用しない、自分で情報を得ようと思ったからだった。
で、早速本屋。
一通り情報を入手し、本屋から出ようとしたブルー。
と。
「・・・? 何だこれは」
一冊の本がブルーの目に留まった。水着を着た可愛らしい女の子が表紙の、しかし中身は、いわゆる18禁本だ。
そんな本はキングダムにはなかったから、好奇心でぱらぱらと中を読んでみるブルー。そして、
「無意味な本だな」
と言い捨てると、さっさと本屋を出て行った。
どうやら、求めるものが術でも技でも、一直線のブルーは興味がないらしい(笑)。




次にブルーが来たのは、済王の古墳。
入り口を見つけるのは難儀だったが、何とか中に入ることができた。
そして襲いくる雑魚敵。
「くくく・・・俺はこういうのを待っていたんだっ!!」
嬉々としてサムライソードを振り回すブルー。ばたばたとなぎ倒される魔物達。傍から見てると何だか怖い(ブルーが)。
そうして一時間ほど経っただろうか。肩で息をするブルーの回りに、モンスターの死体の山ができた。相当な数を倒したようである。
・・・が。
(おかしい・・・)
ブルーは思った。戦い続けて、筋力をはじめ、運動性やHPなどのステータスはかなり上がった。しかし、一向に技を閃かないのである。
(まさか、ルージュの奴が先に剣術を閃いたんじゃあるまいな・・・)
それは、頭のどこかで考えつつも、認めたくなかったことだ。しかし、こうも閃きが悪いと、そうとしか考えられない。
タイミングよく、奥の間から魔物がやってくるのが見えた。
論より証拠。ブルーは試すことにした。
ゴーストにパンチを仕掛ける!
すると、
ピカーン!!
ブルーは短
を閃いた!!!
「・・・やはりか・・・・・・おのれルージュ―――っ!!!」
ルージュへの怒りも拳に乗せて、ブルーはゴーストを粉砕する。
ブルーがルージュに遅れを取ったのは、彼が無駄な行動を何度も繰り返していたからに違いないので、完全な逆恨みである(しかし、ブルーは自分の非を認めたりはしないだろう)。
「く・・・剣技はルージュに取られたか。・・・まぁいい。体術には強力な一人連携、
DSCがある。絶対に食らわせてやるぞ、くくっ・・・」
変な前向き思考のブルーだった。
ところで、ブルー、仲間集めはいいのか?
「術の資質を集めるわけではないし、俺には必要ない」
・・・言い切ったな。
そんなわけで、一人修行に励むブルーだった。
一方、彼の片割れの、ルージュはというと・・・。




「よし、逆風の太刀を覚えたぞ!」
「すごいわね〜ルージュ。私、最近閃きはさっぱりよ」
「あたしも〜。ベアクラッシュで止まってるんだよね」
「話してる暇は無いわよ、エミリア、アニー! 新手が来る、構えて! アセルス、あっちの敵をお願い!」
「まかせといて、ライザ! 天地二段ッ!!」
「あ! アセルスのを見たら閃いた! 僕も、天地二段!!」
「またなの、ルージュ!? 本当にすごいわ〜!」
エミリア編の、俗に言うハーレムパーティで、着々と技を覚えつつあった。
そして数ヵ月後・・・。




「「う〜ん・・・」」
いる場所は違えど、同じように頭を抱える二人。
互いに、ほとんどの技を体得した。しかし、剣術、体術、共に覚えにくい技というものが存在し、それをなかなか覚えられずにいた。
「ドラゴンスクリューが閃かん!!」
「ライジングノヴァが閃めかないっ!!」





果たして、二人が宿命の対決をするのは、いつのことやら・・・。







                                                              <END>










もっと短い話の予定だったのに何だか長く・・・。
あんまりギャグっぽくないし(汗)
タイトル通り、もしも二人が術士じゃなかったら・・・とふと思いついて書いた話です。


2002年11月29日