訓練!




スフォルツェンドは魔法国家である。
その為、国民には自然と魔法への憧れや魔法を敬う心が育ち、魔法を学びたいと願う者も少なくない。
王家の人間なら無論、魔法を修めるのは必然とも言える。王族の女は回復魔法を得意とするが、国を統べるにはそれだけでは務まらない。攻撃、防御、補助、移動…様々な種類の魔法が必要となってくる。
そんなわけでフルートもまた、幼少の頃より魔法の修行を繰り返してきた。ホルンやリュート、それに家庭教師役の法力使い…そういった者達の指導の下、フルートは目覚ましく魔法を習得してきた。この辺りは血のなせる業か、或いはフルート自身の才能によるものだったろう。
とりわけ熱心に教えようとしたのは、勿論、兄(兄馬鹿)のリュートである。彼自身は魔法は大得意だし、自分が得意とするものを妹に教えたい、という気持ちもあった。
しかし何よりも妹命!な彼なので、『可愛い妹を戦場になんか出したくないっ!、でも身を守る術としてはやっぱり強力な魔法は必要だっ…!』とかそんな葛藤も入り乱れつつも、リュートはそれはもう熱心に指導していた。熱が入り過ぎて、修行中に妹を危ない目に合わせたりもした(例・「ハハハどーだいフルート、これがブラッディ・デス・イーターだよ!」「ぎゃああああ地獄の餓鬼魂が私を喰らうー!!」)。
とにもかくにも、時にはそういったこともありつつも、フルートの魔法はどんどん上達し、ついに攻撃系魔法の試験とも言うべき、模擬実戦の日がやってきた…!
「あああ、心配だなぁ、フルート大丈夫かなぁ…」
広大なスフォルツェンドの一角、魔法闘技場にて。試験を受ける当人よりも、リュートの方が余程落ち着かなくその辺をうろうろしている。
そんな兄の様子に、フルートはくすっと苦笑を漏らした。フルートは今は法衣の上にブロンズの甲冑を着込み、いつもよりも随分と厳つい姿をしている。長い髪もポニーテールの形で結い上げていて、雰囲気も凛々しい。ただそれもリュートに言わせれば「フルートってば何を着ても似合っててかわい〜!!」…となるのだが。
「もう、お兄ちゃんったら。そんなに心配しなくても大丈夫よ」
「だけど! 幾ら魔法で作り出した魔物だとはいえ、怪我しちゃうことだってあるんだよ! ボクはもう、フルートの事が心配で心配で…! ああっ、ボクが代わってあげられたら…!」
「リュートったら。それじゃあフルートの鍛錬にならないでしょ」
これまた苦笑と共に、ホルンはそっと窘める。
攻撃魔法の使い方を会得するには、実戦が一番だ。しかし、幾ら魔法が使えても、生兵法は怪我の元、いきなり戦場に出てもそれを生かしきれないことが多い。だから本当の実戦をする前に、魔法で魔物を作り出し、それを仮想の敵と見立てて戦う…。
魔法学校内や、兵士達の訓練で長らく行われてきた手法である。そしてリュート自身も体験者だったわけだが、理屈は分かっていても実際にフルートがそれに挑むとなると、心配で心配で心配で(以下略)堪らないようである。
「だって、フルートはまだ十二歳じゃないか! そりゃあ心配だよ…」
「そういうお兄ちゃんは、十歳の時に受けたんでしょう?」
「う…まぁ、それはそうだけど…」
「心配しないで! 私が今までお兄ちゃんやお母さん、先生達に教わったこと…うまく出しきってみせるから!」
フルートはリュートを元気づけるように、ぱちっとウインクをしてみせる。落ち着きのない兄より、ずっと堂々とした態度である。
これじゃあ立場が逆だなぁ…と思いつつ、それでリュートはやっとすごすごと引き下がる。
こうしてようやく、模擬実戦の幕が上がる。どこか礼拝堂のような雰囲気もある闘技場の武舞台にフルートは立つ。その様を、ずっと背後でリュートやホルン、教師や兵士らが見守る。
フルートから5,6メートル程離れた場所にいる教師が両手に法力を集め、そこから幻の魔物を作り出す。幻とはいっても法力の結集したものだから、質感はあるし、攻撃を受ければ怪我もする。
フルートよりも何倍も大きい、虎のような魔物が、武舞台の上にどん、と現れた。ぎらぎらとした目でフルートを見下ろし、威圧してくる。フルートは身構え、ごくっと息を飲んだ。
「始め!」
教師が模擬実戦開始を宣言する。その瞬間、魔物の爪がフルートに鋭く振り下ろされた。
フルートは即座にバックステップし、その攻撃を避ける。避けながら両手を胸の前に持っていき、その掌に法力を集める。
「…爆!」
ごく初歩的な攻撃魔法が、フルートの手から放たれた。放たれた法力弾は魔物の腹部に命中し、爆炎を起こすが、魔物は数歩よろけただけでびくともしない。
腹の辺りの毛をちりちりと焦がしながらも、再度フルートに襲いかかってくる。
「ああっ…、フルート、頑張れ…!」
戦っている者の気を散らさないために、声援は禁止である。そんなわけでリュートは独り言のように呟くしかない。
フルートは魔物の攻撃をかわしながら、隙をついて攻撃魔法を繰り出している。戦い慣れしているリュートから見ても、初めての実戦の割には、フルートは良くやっている、と思う。攻撃魔法の組み上げ方もスムーズだ。
しかしフルートの手数に関わらず、未だ決定打には至らない。魔物は五体そのものは無事だ。そして窮鼠猫を噛む、とばかりに、雄叫びを上げて、フルートに必死の反撃に出た…!
「あっ、フルート危ない!! えーいジャスティス―――!!!」
妹のピンチを見て取って、ついに我慢できなくなったリュートは、模擬実戦なのも忘れ舞台外から攻撃魔法を放った。
強力な法力を受けて、一瞬で蒸発する魔物。どよめく場内。
「ああっ、リュート王子が倒してしまわれた!」
「しかも無駄に高位魔法使っとる―!!」
…しかしそばに控えている者達の騒ぎに関わらず、リュートは清々しい表情でフルートに近付くと、その肩にぽんと手を置いた。
キラキラと眩い、それはそれはイイ笑顔で。
「ふーっ。もう大丈夫だよ、フルート!!」
「…もう、お兄ちゃん! これじゃ訓練にならないじゃない!!」
勿論、フルートが速攻で盛大に突っ込みを入れたのは言うまでも無い。
後ろの方では、やれやれ、といった風なホルン。
フルートが攻撃魔法を真に会得するのは、まだ当分先になるかもしれない…。





END














模擬実戦、みたいなくだりは私の見た夢が下敷きになっています(笑)
フルートが甲冑着てて、リュートが頑張れって言ってて…そんな一部分しか覚えてないですが、そこから話を膨らませてみました。
実際にそんな訓練があるかどうかは分からない(笑)


2013,11,27
初稿:2013,11,9





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