「別れよーぜ、俺ら」

 前原がそれをカルマに告げたのは、担任の超生物が死んで二年経った春のことだった。
 いつかのようにちょうど上着の袖に腕を通している途中だったカルマは、驚き顔で前原に振り向く。自分のベッドに腰かけている前原は、いつになく真剣な面持ちでカルマを見つめる。

「もう俺ら高3じゃん。いつまでもこのままズルズル…ってわけにもいかねーだろ」

 カルマへの恋情を断ち切り難くて、ここまで来てしまった。
 けれど、今言ったようにもう高校の最終学年だ。将来が、大人になる日がすぐ傍まで迫っている。なのに男同士でこんな関係を…ましてカルマは官僚を目指しているのだからいつまでも不健全な交際を続けているのはまずい、と、そうしたことを前原はぽつりぽつりと語る。
 「本格的な受験勉強始まる前に、この関係清算した方がいーだろ」…前原はそうも言う。カルマが嫌いになったわけじゃない。今でも好きで好きで堪らない。しかし先のことを思うならここで別れた方がお互いの為だろうし、磯貝との件を前原がまだ引きずっているというのもある。
 前原は、カルマにも真相は何も伝えなかった。磯貝と親友同士という間柄もそのままだ。カルマの本心はどうだか分からないままで、それでも前原との恋人関係や共に過ごした時間は一応は平穏で、E組時代と合わせて二年以上付き合った。
 その最中の楽しさや幸せと背中合わせに存在していた、罪悪感と苦しさ。そういった理由も含め、もういい加減終わりにしなければいけないと、前原は唇を固く結んでカルマに真摯な目を向ける。
 服をきちんと着たカルマは、少しの沈黙の後に真剣な風に口を開いた。

「前原、それ本気で言ってんの?」
「ああ」
「ふーん」

 カルマは立って前原と向き合っているが、前原はベッドに腰かけたままだった。シリアスな視線のみが交錯し、表情を変えないカルマは淡々と頷く。

「前原がマジなら、俺も別にそれでいーよ」

 それは望んでいた返事だったのに、胸の奥が鈍く痛む。前原はカルマから目線を外し俯いて、シーツの上の手をぎゅっと握り締めた。別れること、少しもごねてくれないのかよ。不満と淋しさの文句は、喉のところに張り付いた。
 前原が顔を上げずにいると、何やらガサガサと音がする。カルマが帰り支度をしているのだろう。その気配も、すぐに収まる。

「今まで楽しかったよ。…じゃあね、前原」

 部屋から出ていく寸前のカルマの声はあっさりしている割に、今までに聞いたことがないくらい優しかった。
 前原は唇を噛み締めて、遠ざかっていくカルマの足音を聞いていた。それもやがて消えて、前原は項垂れたまま軽く笑う。
 ほんの数時間前は、もうすっかり慣れた身体のやり取りをこのベッドでいつものように交わしていた。
 それももう、きっと最後。

(二年以上も続いてたのに…終わんのは、一瞬だな)

 それはたとえば、手からガラス細工が落下した時のように。酷く脆く、呆気無い。

(けど、これで良かったんだよな。この先のこと色々考えたら……それに、元々俺一人だけ、場違いの恋愛だったんだ)

 通じ合っていたかもしれない線に無理矢理に割り込んで、歪な三角を作った。自分一人だけが結び付くことなく、中空に漂う点だった。
 それがいつか本来の姿に戻る可能性も、まだ存在するだろう。そうであるなら…、やっぱり、ここでカルマと別れるべきなのだ。
 前原は深く長い溜め息を吐く。自分の我儘で、カルマも磯貝も苦しめてしまった。だからこれでいーんだよと、カルマに未練を残す己を納得させようとする。
 重い頭をようやく持ち上げて、前原はもうカルマのいない自室を見回す。一緒にゲームをしたり、勉強を教えて貰ったり、気安く触れ合ったり…そんなカルマとの思い出がぽろぽろと脳裏に浮かんで、柄にもなく切なくなった。恋人との別れなんて、何度も何度も経験してきた癖に。

(俺、何気に、今まで付き合った相手で一番長く続いたのって、カルマだったんだな)

 ふと思い当たった事実に前原の胸がずきりと痛む。
 カルマとの別れは予想以上に寂しく悲しかったのに、不思議と涙は出てこなかった。




※ ※ ※





 カルマが傍にいないその後の一年間は、勉強漬けのせいもあってどこか味気無いものだった。
 以前と同様の女子との交遊は、受験勉強の合間に復活させた。楽しかった。気晴らしになった。だけどただそれだけで、前原には物足りなさがついて回った。過去の恋愛は引きずらない、それがモットーだったのに。原因は当然、カルマだろう。
 カルマと別れた件は、そのことがあってからすぐに磯貝に伝えていた。全部ではないものの別れの経緯を説明すると、磯貝は前原の話をしっかりと聞いてくれ「…そっか」と静かに頷いていた。長らく欺いてはいても、そうした親友の存在が有り難かった。
 「今ならカルマ、フリーだし。告ればOKしてくれるんじゃね?」と、前原が詫びとアシストの意味で口にしてみれば、磯貝は苦笑を浮かべ「いや、それは…」と言ったきり口ごもり、その先を言葉にすることはなかった。そこでひとまず前原とカルマと磯貝は単なる元クラスメート同士の関係に戻り、そうして時間は、また流れる。





 殺せんせーが遺した教育の成果でもあるのだろう、次の春には、前原は無事に志望の大学に合格した。
 大学に入学してしばらくは目まぐるしく、新生活を軌道に乗せるのが楽しくも忙しかったが、そんな日々も落ち着いた頃に磯貝から声がかかった。「久し振りに、二人で飯でも食べないか?」と。磯貝は磯貝で、第一志望だった東杏大学での学生生活を始めていた。
 「おーいいぜ」と前原はその誘いを了承した。カルマと別れてからは、大分気兼ねなく磯貝とつるめるようになっていた。磯貝とは春休みに何度か遊んだが、大学に入学して以降は会っていない。
 約束の土曜日、前原は磯貝と待ち合わせ予定の喫茶店に出向いた。ランチでちらほらと座席の埋まるその店の奥に、磯貝が座っているのが見える。
 「よっ」と軽く声と手を上げながら席に近付いていくうちに、前原は気が付いた。…磯貝の隣、前原からは見え辛かった壁側の位置に、カルマがいる。

「あ…」
「久し振り。突っ立ってないで座ればぁ?」

 クスッと笑うカルマは前原を見て言う。時折あるE組のクラス会で顔は合わせていても、こんな風にプライベートでカルマと会うのは久し振りで、前原は緊張を覚えながら磯貝とカルマの向かいに座る。
 なんでだ? どうして?
 疑問符がぐるぐるする中、前原はついカルマに目を奪われる。相変わらず格好良くて綺麗だなと、忘れていたい未練が蘇る。

「前原、何にする?」
「あ、サンキュ」

 なんでカルマがここに?と問う前に磯貝がメニュー表を手渡してきたので、前原は受け取る。それを眺めながら、前原は磯貝とカルマにもチラッと目線を向ける。
 本当に、どうしてカルマがここにいるのだろう。
 中学校の頃より背が伸び、大人びた二人は、元々の顔立ちの良さもあって並んでいるのが凄く絵になっていた。本当ならもっと早く実現していた筈だった光景…、そうした磯貝とカルマの姿に寂しさを覚え、古傷がちくりと疼くと共に、前原は唐突にすべてを察する。
 そうだ、カルマの通う大学もまた、学部は違えど磯貝と同じ東杏大だった。

「あー…、そっか、そーいうことか」
「ん?」

 前原が納得の声を上げると、磯貝とカルマが揃って不思議そうな顔を向けてくる。その様にまた痛みを感じつつ、前原は語る。

「お前ら、うまくいったんだな。今日は付き合い始めました報告か。大学で再会して二人で色々話すうちに、そーいう話にもなった…ってとこか。
良かったなー、元々両思いだったもんなお前ら。うん、マジ良かった。俺が余計な真似したせいで、ややこしいことになっちまってたからな。お似合いだぜ、お二人さん。くっつくの遠回りさせちまって、本当に悪かっ…」
「勘違いするなよ」
「早合点すんなよ」

 口が動くまま、しかし複雑な思いで話していた前原の言葉を、磯貝とカルマがほとんど同時にぴしゃりと遮る。
 前原が「へ?」と目を丸くしていると、磯貝が穏やかに溜め息を吐いた。

「あのな、今日カルマがここにいるのはそういうんじゃないから。大学が同じになって色々話したのは本当だけど…、カルマ、前原とヨリ戻したいけどどうしたらいいだろって、俺に相談してきたんだよ」
「……へ?」

 まったく思いも寄らなかった磯貝の言葉に、前原が更にポカンとした顔になる。素知らぬ態度でお冷やのコップに口をつけていたカルマが「今更、俺が直接前原に連絡すんのって気まずいじゃん」と言い、やはり素っ気無く水を飲む。
 この事態に思考がついていかなかった前原は、ここでようやく再起動する。

「…いやいや待て。なんでそーなるんだよ。俺、カルマにも磯貝にも悪いことしたなって、これでも反省してんだぜ? だからカルマと別れたっつーのもあるのに、ヨリ戻したら意味無いだろ。
え、だってカルマが本当に好きなのって、俺じゃなくてお前だぜ? ずっと言えなかったけど、知ってたんだよ俺。お前ら、めでたく両思いじゃん。そのまま付き合えよ。俺に遠慮とかいらねーから、マジで。それがなんで、俺とカルマで元サヤって話になんの?」
「あー…と、前原、それなんだけどな」

 磯貝とカルマが目配せをして、二人して再び前原を見る。

「…ごめんな、やっぱりあの時俺が余計なこと言ったせいで、前原のこと追い詰めてたんだな。俺とカルマ、中学時代の気持ちは伝え合って、色々話し合って…その辺りはもう、お互いに納得済みだから」
「そ。そこはもう何も問題無いから。その上で俺、また前原と付き合いたいって言ってんだけど?」
「ちょっ! ちょっと待った!」

 冷静になった頭がまたぐるぐるしてきた。この二人は、一体何を言っているんだ?

「や、だからお前ら両思いじゃんか…。それでよくね? なのになんで、いつの間にかそんな重要な話、俺の知らないとこでカタ付けてんの? え、だって俺…今度はちゃんと身ィ引こうって…」
「落ち着けよ、前原」

 未だテンパる前原に磯貝が再度溜め息を吐く。それから真っ直ぐに前原を見て、力強く笑った。

「つまり、カルマはお前をちゃんと好きだってことだよ」

 ごちゃごちゃに縺れていた感情をスッと断つような、磯貝の一言だった。前原が呆気に取られた顔で磯貝を見れば、磯貝はさっと席を立つ。

「まぁ後は、お前とカルマでしっかり話し合えよ。今回の俺の役目はこれで終わりだから、もう帰るよ」
「妙なこと頼んでごっめんねー磯貝。約束通り、今度飯奢るから」
「ああ、楽しみにしてる」

 磯貝はカルマにニコッと笑って、この場を立ち去ろうとする。「えっ、おい磯貝!?」と前原は思わず立ち上がって磯貝を呼び止めたが、磯貝は「俺は二人を応援するって言っただろ?」と、前原にも手を振って完全に行ってしまった。
 前原がぼんやりと磯貝を見送っていると、「だぁから座れって」とカルマの呆れ声がした。カルマは前原からは顔を逸らして、テーブルに頬杖をついている。
 前原は促されるままにストンと腰を下ろした。何だろう、この置いてきぼり感は。何だか凄く、話を勝手に進められた気がする。

「……」
「……」

 何となく、無言が続く。
 カルマが息を吐いて、お冷やのコップを傾けた。氷同士がぶつかる音がする。「あの…カルマ」、おずおずと、前原が切り出した。それでカルマの顔が前原に向けられる。

「俺とやり直したいっての…マジで?」
「…ん」
「…だってお前、磯貝のことが好きだったじゃねーか」
「そこは、俺と磯貝で納得済みって言ったでしょ」
「俺は納得してねーよ」

 前原の声に段々と力が籠る。
 まだ今一つ実感は無くても、カルマが復縁を望んでくれたのは正直、凄く嬉しい。将来のことをカルマが考えていない筈が無い、にも関わらず自分を求めてくれていることも。

「…俺はカルマが好きだよ。ぶっちゃけ、カルマと別れてからまた色んな女子と付き合ったけど、カルマの時程は夢中になれなかった。…こーやって話してて確信してる、俺、やっぱカルマが凄ぇ好きだって」

 正直に、前原はカルマと別れてからのことを話す。受験勉強の傍ら、女子との交遊の中で新しい恋愛を求めてはみたが、どの子とも長続きしなかった。
 自分の心はそこまでカルマに引きずられていたのだと、こうしてカルマと二人きりでいることで痛感する。

「カルマとヨリ戻せんなら、当然嬉しいよ。けどお前…本当に俺でいいのかよ」

 そう、嬉しい。それが叶うとは思っていなかったから。
 けれども暗殺教室の生徒であったあの頃、カルマが磯貝のことを好きだったのも確かで。
 かつてそれを邪魔してしまっただけに、カルマにはもう自由に恋愛を楽しんで欲しいと思うし、その相手が本当に自分であっていいのか、その自信が前原は湧かなかった。

「…俺が悪かったんだよね。告りもしないで、どーせ無理だしって、あの頃磯貝に本気をぶつけようとしなかった。ガキだったよ、前原だけじゃなくて俺も。身勝手なガキだった」

 独り言のようにカルマが言う。その瞳は少し、遠い昔を見ていて。
 けれどカルマはゆっくり瞬きをすると、その双眸でしっかりと前原を狙い撃った。

「諦めと妥協の気持ちで、前原と付き合い出したってのはある。…けどさ、この俺が、諦めと妥協だけで前原と二年以上も付き合ってたって、思ってる?」
「カルマ…」
「前原が前原なりに俺のこと大事にしてくれてたのは感じてたし、一緒にいて楽しかったのは…嘘じゃないから」

 カルマの唇が優しく弧を描く。前原の胸の奥はじわっと熱くなって、喉が震える。
 それは、本当に? 本気で言っている?
 もしマジなら、俺は―――。

「要は、前原の勝ちってこと」

 そう囁いたカルマの声もまたあの日のように優しく、今日は前原はその表情を真っ向から見ることができた。




※ ※ ※





 その日の夜はお互いを求めずにはいられず、カルマの部屋で二人は絡み合った。一年以上の時間を空けて触れる相手の肌は愛しくて堪らなくて、幾度もキスをして幾度も掌を伸ばした。
 カルマの白い首を前原は唇で撫でる。久方振りのカルマの匂いや声は、前原を酷く興奮させた。

「は…、ぁ…ッ」
「ん…カルマ…っ」
「ッはは…、前原、がっつき過ぎ」
「や、だって嬉しくてさ。ヤベ、泣きそう」
「どんだけだよ。ば〜か」

 眉尻を下げて笑う前原をカルマははっきりと馬鹿にするものの、顔付きは穏やかで。「馬鹿は、俺もか」と呟き、中学時代より長めの前原の髪を一房引っ張って、カルマは今度はこんなことを言う。

「あの時いきなり別れ切り出されて、俺結構寂しかったんだけど?」
「…今になってそれ言うかよ。ってか、カルマ、あん時そんなこと一言も…」
「いっつも軽い前原がマジに言うなら、別れたいってのはガチなんだなって思ったんだよ。だったら俺もそれでいーか、って。ちゃんと本気か、確認したでしょ? 実際は、俺に未練タラタラみたいだったけど、前原クン」
「うるせーよ」

 悪戯っぽく犬歯を見せるカルマの首筋にかぷっと噛みついて、前原はそのからかいを止める。けれど今更でも、カルマが本音を話してくれたことは嬉しかった。

「カルマの方こそ…今更、『やっぱ磯貝の方がいい』って言い出しても、渡さねーし離さねーからな」
「ん〜、それは前原次第かな〜。前原の日頃の態度によっちゃあ、すぐに磯貝に乗り換えちゃうかも」
「おい…カルマそれ、ビッチ先生のビッチ行動をビッチ呼ばわりできねーくらいビッチ発言だぞ…」
「あっはは。ビッチ言い過ぎ」

 ジトっとした目になる前原にカルマは楽しげに笑う。それから、微かに複雑そうな表情を浮かべてから「言わねーよ」と前原を見上げる。
 何秒か、無言で前原を見つめ、カルマは柔らかく微笑んだ。

「軽くてチャラくてタラシでも…、今俺が好きなのは、前原だから」

 その台詞に感動し、前原は強くカルマを抱き締める。またこうしてカルマを抱き締められることが嬉しかった。それに、カルマが自分を好きだとはっきり言ってくれている。
 数年越しの恋が実った気分で、けれど同時に『ごめんな』と前原は思う。

(……ごめんな磯貝。それに、カルマ)

 二人がどういった話をして、どういった風に互いが納得するように話を落着させたのか、詳しくは前原は分からない。
 分からないけれど、二人がかつてのそれぞれの恋を終わらせたことと、自分の思いがようやくカルマに届いたことを噛み締めて、前原はカルマを抱く腕に力を込める。
 この埋め合わせはいつか必ず、何らかの形で二人にしよう。せめてそれだけはと、前原は誓う。

「ん…前原苦しい」
「ごめん」
「重いし」
「ごめんな」

 前原に抱き締められながら、カルマがくぐもった声で文句を言う。色んな気持ちを詰めた「ごめんな」を前原が繰り返せば、「別にもういいし」とカルマが応える。

「俺の方がずっと。マジでごめん、前原」

 そうして前原の背を抱き締め返しながら、カルマもまた静かに謝る。その一言だけでも今までの様々なモヤモヤが、一気に吹き飛んだ気がした。
 我ながら単純だなと思いつつも、そこにはカルマの確かな誠意が感じられたから。前原はカルマからゆるゆると身を離し、赤い唇にキスを落とす。

「ん…、こっちこそもういいって。過ぎたことはあんまり気にしない主義だし、俺」
「…へぇ? なら俺も、もう気にしねーことにする」
「お前の場合、切り換え早過ぎだよっ」

 今し方の殊勝な態度はどこへやら、こちらを見上げニヤリとするカルマに前原はツッコミを入れる。けれどこうした会話でも、気持ちが軽くなっていくようだ。
 「でもホント、ごめんなカルマ」と、前原は最後にもう一度謝る。

「ん…だからもういいから。前原、気ぃ済んだ?」
「…まぁな」
「じゃあさ…そろそろ続きしねぇ? この状態でずっとお預け食らってんの、俺かなりキツイんですけど…ッ」

 もどかしげに脚をシーツに擦り合わせるカルマが、挑発するように目を細めた。それで前原に火がついた。今のカルマの発言と動作は、かなりヤバかった。

「…そりゃ悪かったな。これからた〜っぷり可愛がってやるよ。この一年空いた分も」

 熱全開の笑みで嘯いて、前原はカルマとの行為を再開する。その前髪、額に口づけを重ねて、前原は下半身をゆっくり動かし出す。カルマがぴくんと喉を逸らして小さく呻き、そのシルエットに血が騒いだ。

「…好きだぜ、カルマ」
「ん…ッ!」

 また抱き締めて、カルマの弱いところを刺激しながら耳の中に募る思いを流し込んでみる。カルマはふるふる小刻みに震えて、顔を真っ赤にした。
 可愛い反応に調子に乗って、前原は同じことを何回か繰り返す。今は本当に、正真正銘の両思い。それが最高に嬉しかった。

「俺、マジに好きだから、カルマのこと」
「も…、それはわかったから、まえはら…。…俺も好きだよ、今は、ちゃんと…」
「ん…、やっぱカルマ、凄っげぇ可愛い…ッ」

 舌を縺れさせながらも思いを言葉にしてくれたカルマに、前原はキスをする。唇が触れ合った後は舌もやんわりと絡み合って、そこから幸福感が全身に広がっていく。密着している相手の体温が、熱く熱く心地良い。
 長く甘いキスを終えると、前原は呆けるカルマを見てにかっとした。

「今夜は俺、カルマを寝かす気ねーからなっ。覚悟しとけよ〜」
「…え〜? それ前原が言うと、洒落にならねーよ」
「そりゃ本気だし」
「マジかよ」

 前原の脅しに、少し元気を取り戻したカルマは嫌そうに溜め息を吐き出した。その一方で片腕を前原の首に伸ばして、指先で後ろ髪を撫でてくれた。
 それでまた幸せがいっぱいになって、前原は額をカルマのそこにコツンとぶつけた。




 



END










当初は誰も報われない話だったのが、ハッピーエンドルートが見えたことにより没ネタの墓場より蘇生した一品。
原作本編じゃそうつるむことはないけど、磯貝・前原・カルマのトリオが好きです。
今回はシリアスな三角関係ものでしたが、明るくわちゃわちゃしたこの三人の三角関係ものも書いてみたいです。

2017,4,30







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