今だから言うけど



「待ってくれ!」
その声を振り切って逃げた。
偶然の、ほんの一瞬の再会。お前の顔を見た瞬間、俺は踵を返したから。
最初から決めていた。お前とは、行動を共にしないと。
信じていないわけじゃない。信じてる。すごく。
だからこそ怖かった。
もしかしたら、裏切られるかもしれないその時が。



しばらくの間走り続けて、林を抜けたところで、俺は一旦足を止めた。
その途端、一気に疲労が押し寄せてくる。荒い呼吸を繰り返した。
幾らかそれが落ち着いた時、恐る恐る、後ろを振り向いた。誰もいなかった。
ほっとした反面、ひどく落胆していた自分がいて。
・・・・追って来て欲しかった?
追いつかれないように、懸命に逃げたのは自分なのに。
「・・・・竜也」
お前は今、何を思っているんだろう。
俺に信じてもらえなかったと、ショックを受けているんだろうか。
それでもまだ、探し続けているんだろうか。
ごめんね、竜也。
信じてる。お前は自分を見失っていないって。
信じてる。お前は誰も殺してないって。
信じてる。お前は俺を殺さないって。
信じてる。だから、一緒にいられない。
もしも裏切られた時に、きっと俺は耐えられないから。
―――結局、俺が臆病なだけ。






6時間ごとに流れる放送で、お前の名前が呼ばれないことに安堵しながら、俺はただ、あてもなく彷徨い続けた。
一体、何の為に。一体、何をしたいのか。それすらも、もう、分からなくて。
お前は今、何をしているのかな。
俺のこと、まだ探してくれている? 俺がむしろ、お前を裏切ったのに。
俺はお前のこと、多分、とても傷つけたね。
ずっと会いたかった人に拒絶されるのって、どんな気分だった?
訊きたくても、知りたくても、もう、会えない。・・・・会えるわけない。
今更、どんな顔してお前に会えばいいの?
喉の奥が詰まって、熱くなってくる。それは、泣くのを堪える時とあまりにも似過ぎていて。
だから気付くのが遅れた。
俺の首筋に、どこからか放たれたボウガンの矢が突き立っていることに。






―――翼!―――






それは、多分、幻聴だった。
俺を呼ぶその声。もう、悲しいほどに懐かしい。
くずおれる体、頬に触れる土の冷たさに、何故かほっとして。
フェードアウトしつつある意識の中、お前の笑顔が浮かんだ。
・・・・馬鹿だよね。どうして、信じきれなかったんだろう。本当は、ずっと一緒にいたかったくせに。
自分の馬鹿さ加減に、呆れて笑いたくなった。それだけの力は、もう残ってないのに。
でも、だからこそ。最後の最後で、素直になりたい。






今だから言うけど。



もう一度、お前に会いたかった。









<END>





実はこの話、本家本元バトルロワイアルの慶子さんが川田から逃げた理由、の個人的解釈を水翼に当てはめてみたものだったりします(前半部分)。
信じていたからこそ、裏切られるのが怖かった・・・という。
でもそれって、結果的には信じてないってことになるんでしょうかね・・・ううむ。
内容が、「信じる事って難しい」とちょっと被っちゃったかな・・・。


2003年10月13日








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