「      」



もう一度、お前に会いたかった。
会って、話がしたかった。



探し続けて、やっと見つけた翼は、俺を見た瞬間、何も言わずに逃げ出した。待ってくれ、という俺の言葉にも聞く耳持たず、全速力で駆けて行った。
もちろん、俺はすぐに後を追いかけたが、視界の悪い林の中、やがてお前を見失ってしまった。
お前を追いかけている間はとにかく必死で、何故逃げ出したのか、どうして何も言ってくれないのか、考えている余裕なんてなくて。
でも、追いつけなかったことに茫然として、足を止めて、しばらくして冷静になった頭で考えてみたら、それはとても、とても深い絶望のように感じた。
翼が俺を見て逃げたことに、何か理由が欲しかった。酷い死体を見て錯乱していたとか、恐怖に怯えていただとか。
けれど翼は、そんな風だったようには見えなくて。翼は、俺のことを認識した上で、逃げ出したみたいだったから。
そうなると、一番考えたくない答えに、どうしても辿り着いてしまう。
翼は俺を、信じてくれなかったんだということ―――・・・



人に拒絶されるのがこんなに辛いだなんて。
このゲームで改めて知った。できれば知りたくなかったのに。
だけど。
それでも、翼に会いたかった。会って話がしたかった。
翼が俺のことを信じていなくても。翼が俺のことを受け入れてくれなくても。
それでも俺は、お前を好きだということに変わりはないと、伝えたかった。
だから俺は、もう一度お前を探し始めたんだ。




その甲斐あってか、俺はまた翼に会うことができた。
ただし、お前はもう、生きていなかったけれど。


どうして俺から逃げ出したのか。
その答えを聞くことは、もう永遠に叶わない。


「翼・・・」
彼の名を呼んで、俺はその体を抱き上げた。小さな体。首筋にボウガンの刺さった、もう血の通っていない体。
ぎゅっと抱きしめた。死に顔が苦痛に染まっていないのが、余計に痛ましくて。
翼が最期に何を思ったのか、知る由もないけれど。
ただ、俺の思いだけは。
お前にどうか、届きますように。
解ってくれなくていい。聞こえてなくてもいい。ただの自己満足に過ぎなくても。
けれど、
「翼」
それでも、
「       」
翼に会えたから。





出来得るのなら、お前が生きている間に、伝えたかったけれど。









<END>








「今だから言うけど」の水野視点です。「今だから〜」の翼くんは水野に語りかけてる感じなのに、何故にこっちはこんな文体になってしまったのか、自分でも良く分からない・・・(うまく直せないし(汗)) 一人称なはずなのに三人称っぽいね・・・。
最初の部分が、「今だから〜」の最後の部分とリンクしてあるのに、お気づきになった方はいるでしょうか・・・・?
図らずとも、翼くんの願いは叶ったのですね。水野も然り。ただ、それが二人の望む形ではなかっただけで。
それは「今だから〜」と「     」のテーマ(?)だったりします。(ハッ、「今だから〜」を後に読む人にとってはネタバレだね、これ(汗))
短編の小説にしては珍しく後書きで語ってますな。久々に小説書いたから頭うねってるね、自分・・・。


2003年11月30日




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