白い世界に消えたひと





昔、何かで聞いたことがある。
ヒトが、一番綺麗な姿のまま逝ける死に方は、凍死だと。







雪が降る。
しんしん、しんしんと。
すべてを飲み込むかのように。





一片の雪が少年の頬に舞い降りる。しかしそれを払う手は、もう動くことはない。
雪のような白さを通り越して、すでに土気色になった少年の顔。
大量に出血しているのとは裏腹に、いっそ安らかな死に顔。
それを見つめているもう一人の少年の方が、むしろ死人のような顔で。
冷たい地面に横たわっているのは翼。
それをただ茫然と、座り込んで見下ろしているのは竜也。
命の抜け殻を、ただひたすらに。





雪が降る。
しんしん、しんしんと。
すべてを飲み込むかのように。





視界が白で埋め尽くされてゆく。
それが滲んでいくのは、きっと、目に落ちた雪が解けたせいだ。
涙なんかじゃ、ない。多分。そう、思わないと。
彼の死を、認めてしまうようで。
「翼・・・・・」
息を吐き出すようにして囁く。
その囁きも、もう、彼に聞こえることはない。
どうしても、何をしても、止めることができなかった、惜しみなく流れていった彼の血。その上にも雪は降り積もる。
血の赤と雪の白が混じりあう。けれどそれも、やがて完全に白に飲み込まれていくのだろう。
凍死なわけでは決してないが、綺麗なまま向こうに逝ける。華やかだった彼に相応しい葬送かもしれない、ぼんやりとした頭の片隅で、竜也はそう思った。もう認めつつあった。



静寂が続く。
それは、竜也が一発の銃弾に倒れるまで。






雪が降る。
しんしん、しんしんと。
すべてを飲み込むかのように。





倒れ込んだ竜也の間近に、翼の顔があった。
激しい痛みは感じたけれど、それが次第に薄れていくのを感じた。自分は死ぬんだ、と思った。もう、それでもいいかもしれない、と思った。
最期の力で、翼の手を握り締めた。ひんやりと冷たかった。
端から見たらまるで心中死体だな、まあ、実際似た様なもんだけど。
それどころじゃないにも関わらずそんなことを感じて、けれど、それでもいいかもしれない、と思った。
きっと何もかも、雪が埋め尽くしてくれる。
後のことはもうどうでもいい、彼を無くした時点で、その後降ってきた雪のように、俺の心も白く閉ざされてしまったから。
ひらひらと、雪が自らの血に落ちてくるのを見て、竜也は笑んで目を伏せる。
限りなく真っ白な空からは、その欠片が零れるように、後から後から雪が降りてきた。
そしてそれは、少しづつ、確実に、二人の上に降り積もって・・・・。







雪が降る。


・・・雪が降る。




しんしん、しんしんと。







すべてを、飲み込んで。






<END>










すごい季節外れです。しかも、小説っつーよりはむしろポエムですな。
とにかく、この状況というか描写を書きたい、というのを優先させたらこうなりました。
情景を思い浮かべながら読んでいただけたら幸いです(私の拙い文じゃ想像力が働かないかもしれませんが・・・(汗))。
ひっさびさの更新がこんなんですみません。



2003年9月7日





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