死んだらおしまい




あんな奴、いなくなればいいのにって、思ったことは何度もあった。




だって、あいつが―――風祭がいる限り、みゆきちゃんは俺の方なんか見向きもしてくれない。
俺がいくら頑張ったって、活躍したって、みゆきちゃんが見てるのはいっつも風祭の方だ。
何で、あんな奴ばっかり……チビだし、サッカーだってそんなにうまくないし、天然入ってるし……そりゃあ、努力家だし、優しいとこもあって、結構いい奴だなってちょこっと思ったこともあったけど、それでも、何でみゆきちゃんはあいつのことばっかり見てるんだ。
俺の方も見て欲しくて、ちょっとは見直して欲しくて、頑張るのなんてだるいしめんどっちーけどそれでもそれなりに頑張ったんだ、俺。でもやっぱりみゆきちゃんの目には風祭しか映ってねーみたいでさ、悔しくって。あんな奴、転校なんかしてこなきゃよかったのに、とか、さっさと卒業しちゃえばいいのに、とか、……いなけりゃいいのにって、どーしようもなく、妬んでた。だって風祭さえいなけりゃ、みゆきちゃんだって少しは俺の方に目を向けてくれるだろ? だからとっとと三年になって、サッカー部引退してみゆきちゃんとの繋がりが薄くなって、そのままさっさと卒業しちまえって、何回も思ったさ。早くいなくなっちまえって。
…でも、だからって、死んじまえ、だなんて、流石に思っちゃいなかったよ!
あいつがとにかくみゆきちゃんのそばからいなくなっちまえばそれで良かったんだ。なのに、風祭のクラスがプログラムに選ばれたとかで、佐藤先輩共々死んじまって。夕子先生まで自分のクラスを庇おうとして殉職しちまったらしい。勿論それにも驚いたけどさ、俺にとっては、やっぱり何より風祭だよ。まさかいきなりこんな形で、こんなあっさりと、簡単にあいつがいなくなっちまうなんて…!
風祭がいなければ、って、思ってたよ、俺は。でも、あいつが死んで喜ぶくらい、恨んでたわけじゃないんだ!! だってその証拠に、あいつが死んだって聞いても、永遠にこの世からいなくなったって知っても、これっぽっちも嬉しくない。恋の邪魔者が消えた筈なのに、だぜ。逆に、どうしようもなく胸に穴がぽっかりと空いちまったみてーだ。
呑気でさ、いくら俺がライバル宣言してもまるで相手にしてなかったあいつのへらっとした顔ばっかり浮かんできてさ。何だよこれ。これじゃまるで、あいつが死んで俺、想像以上にショック受けてるみたいじゃんか。
実際、風祭が死んでショック受けてる奴は多いよ。水野先輩とか、高井先輩に森長先輩、それに小島先輩も。あの不破先輩ですら動揺してんだぜ。松下コーチも落ち込んでるみたいだ。一年の連中もさ、野呂を始めに、みんなひでーよ。風祭だけじゃなく、佐藤先輩や夕子先生もってんだから、みんな尚更だろーさ。
でもさ、そいつらはさ、分かるよ。けど、何で俺まで落ち込んでんだろ。あんな奴、大っ嫌いだったのに。いなけりゃいいのにって何度も思ったのに。
何も、死ぬことはねーだろーよ、風祭。おかげでほら、みゆきちゃんなんて学校一週間も休んだまま、出てこない。こないだ見舞いに行ったけど、会いたくないって追い返された(みゆきちゃんのお母さんは言葉を濁してたけど、多分みゆきちゃんはそう言ったみたいだ)。
死んじまったら、永遠に勝てっこねーじゃねーか。色んな意味で。あいつがいなくなれば、ちょっとは脈があるって思った。あいつが卒業とかしてみゆきちゃんの目の前からいなくなれば、みゆきちゃんも振り向いてくれるかもしれないって、思ってたのに。
とんだ計算違いだった。いなくなっちまったから…永遠にいなくなっちまったから、みゆきちゃんは逆に、いつまで経っても死んじまったあいつを想って泣くんだろう。死んじまったからこそ、みゆきちゃんの心にしぶとく残っちまんだ。
くそ、ずりーよ、風祭。俺、結局お前に勝てねーじゃねーか。
それにこれまた悔しいことに、生きてあいつを越えることができなかったことを、やっぱり悔しく感じてる自分がいるんだ。
野呂とかみたいに、大泣きするまではいかねーよ。でも俺も、何だか、何でだか鼻の奥が痛くって、喉の奥がひきつって…
だからそれを誤魔化すよーにして、鼻を啜ったんだ。






END







『ライバル視してる風祭が死んだことを素直に喜べない(むしろ悲しい気持ちがある)サン太』なコンセプト。サンタ初主演。タイトル後付け。

初稿:2012,12,17




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