朝日に光る決意



夜明け前の空の下で、少しずつ小さくなっていく。
みんなが戦った島。みんなで戦った島。
モーター付きボートに揺られながら、翼と成樹はぼんやりと遠ざかっていく戦場を見つめていた。
「結局、生き残ったんは俺らだけやったな」
ぽつりと成樹が言う。翼も小さく、「ああ」と同意した。
ナショナルトレセンチームの中から選出された三十名で生き残りの椅子をかけたバトルロワイアル。ある者はゲームのルールに則り仲間を殺すことを決め、またある者はゲームに乗るのを拒否し何とか中止させようとして、そうして翼と成樹は後者の方で。
不破の協力もあって首輪の解析までは漕ぎ着けたが、あの島を脱出する頃には、もう翼と成樹二人以外の仲間は残ってはいなかった。
本部のコンピュータには、二人もまた死亡したというデータが送られているはずだ。監視船は既に死角を突いて振り切っている。今こうして二人が海の上で生存していることを誰も知らない。
本部の人間が島中の死体を集め翼と成樹のそれが無いことに気が付く頃には、二人はとうにどこかの国へ高飛びしている予定だ。
「・・・俺達だけ、生き残っちまったな」
潮風が翼の長めの髪を撫ぜ、その表情を隠す。多分、悔しさと悲しさとがない交ぜになった顔をしているのだろう、その拳は血が滲むかと思われるほどぎゅっと強く握り締められている。
先程成樹が言ったのと似た言葉。けれど、中に含まれるものは違う。
自分達だけ生き残ってしまった。みんな、下らない殺人ゲームの犠牲になったのに。みんな、まだあの島で、葬られることの無い惨めなままの屍を晒しているのに。
自分達だけがこうして生きている。生きて帰ろうと願ったことは本当だけれど、みんな死んでしまったのに自分達だけが生き残ってしまったなんて、申しわけ無いような遣る瀬無いような、そんな気分に襲われる。いや、そんな簡単なものじゃない。
みんな、みんな、死んでしまったのに、何で自分達だけ生きている? 生きていたかったのはみんな同じなのに、どうして俺達だけが。
生きている自分に憎しみすら覚える。
かと言って、死ぬ訳にもいかなくて。
「せやな、生き残ったんは俺らだけや」
もう一度、成樹がそう言う。既に遠い波間にかすかに見えるくらいに小さくなった島を見続ける翼の肩に、軽く手を置いた。
「せやから・・・俺らは、生き残った俺らにしかできひんことをするんや」
成樹もまたあの島を見る。将も、水野も、不破も、光徳も・・・・血だらけのチームメイトが転がる場所。そして年端も行かない彼らを殺し合わせて、のうのうとしている政府の人間もいる場所。
それを見つめる成樹の目は、戦いの三日間の疲労もあってか酷くぎらついていて、けれどそこに浮かぶのははっきりとした殺意。必ず、いつか復讐してやる。みんなが、俺らが味わった痛み、思い知らせてやるんやと。
それでも、浮かぶのは負の感情だけではない。憎しみの他にも、胸に灯る思いがある。それは成樹だけではなく、翼にも。
「ああ。絶対に、こんなゲーム、ぶっ潰してやる・・・・!」
今回はできなかった。中途半端に終わってしまった。自分達はうまく島から脱出できたけれど、みんなはそうじゃない。殺人ゲームの阻止、それはできなかった。だから。
今すぐには無理かもしれない、けれど、必ずいつか、こんなゲームなど無くしてみせる。人殺しと蔑まれても卑怯者と謗られても、逃げて逃げて力をつけ、同じ考えを持った同志を集め、馬鹿げたゲームを考えた無能な政治家達に革命を起こし、この国を変えてみせる。
何年先になるか分からない。それでもやってみせる。それは、生き残った自分達にしかできないこと。
「腹くくれよ、そう簡単には行かないだろーからな」
「嫌やな、姫さん。俺はとっくに覚悟決めとるで」
翼の顔にようやく力強い笑みが戻り、成樹もまた不敵に笑む。
朝日が雲間から差し込む頃には、完全に島の姿は見えなくなっていた。それでも二人はまだその方向に目を向けながら、胸の中でもう一度誓う。
こんなゲームは無くしてみせると。
それは散ったチームメイトと、自分自身に向けた決意。

今は無理かもしれなくても、いつかきっと、必ずこのゲームを無くしてみせる、と。





<END>







結構ベタな話になっちゃいました・・・。
一応シゲ×翼のつもりだったんだけど、「&」だねこれじゃ。
久々にバト笛書いたなぁ。


2006年11月23日



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