将は空を見上げた。
この時期に雪が降ってくるとは思わなかった。



雪の降る島



東京は、春の訪れももうすぐ。桜の蕾も、きっとほどけ始めていることだろう。
だから意外だった。昨日から急に冷え込んだとはいえ、まさか雪が降るなんて。
冷たさが頬を刺す。雪と同じような白い息が、闇の空に消えていく。
とめどなく空から降りてくる雪に、将は韓国での試合を思い出した。
寒さなんか気にならないほど、将にとっては、熱く燃えたゲーム。結果としては勝てなかったけど、それでも、点を上げることができたし、みんなのチームワークも良くなった気がする。
(・・・楽しかったな)
心の中でぽつりと漏らす。勝てるかどうか、正直分からなかった試合、けれど、サッカーができるという喜びにわくわくして。
―――あの頃にはもう戻れない。
すぐ側で、倒れている人に目を向ける。李潤慶。あの韓国の試合での好敵手。殺されかけたとはいえ、自分はこの手で人を殺めてしまった。
家族の、周りの人達の温もりに包まれていた時はもう遠い。生きて帰れるかどうか知らない、生きて帰れても、今までの生活は多分できない。
諦めたわけじゃない。だけど、もう、きっとあの日々には帰れないから。
みんなと一緒に夢を目指していたのに、どうしてこうなってしまったのか。
もう戻れない日常を思って、彼は泣いた。雪はなおも、白く白く、降ってくる。
やがて雪は、雨に変わった。




<END>






昨日雪が降ったことで思いついて、頭に浮かんだままを書いたもの。
だから、何というかこう、淡白な感じの話ですな。短いし・・・・。



2004年3月21日




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