あなたは私にとって。
例えるのなら、真冬の太陽。




真冬の太陽




川の側の道を一台の自転車が走っていた。
鼻歌を歌いながら軽快にペダルをこいでいるのは、武蔵野森サッカー部のエース藤代。そして彼の腰に掴まって荷台に乗っているのが、桜上水女子サッカー部所属、
結構なスピードで飛ばしているため、頬を横切る風は鋭い。季節は冬、頼みの太陽も今は雲間に隠れてしまっている。
「ふ、藤代くん、悪いけどちょっとスピード落としてくれない?」
「あ、ごめん」
藤代は一瞬の方を振り返って笑顔で謝ると、彼女の言う通りに少しスピードを落とした。風に勢いよく靡いていたの髪の毛が少し落ち着く。
先程よりも緩やかに自転車は行く。
川の側の野道で自転車の二人乗り。なんて青春を感じさせる光景だろう。
―――ただしここが、殺人ゲームの会場であることを除けば。
「ねぇ、藤代くん」
「何?」
「なかなかみんなに会えないね・・・・」
「・・・そーだな」
話しかけたの表情は暗い。幸い、ゲームが始まって以来、彼女と同校である桜上水や、藤代のチームメイトのいる武蔵野森のメンバーの名は放送されていない。つまりは、まだ生きているということ。
それなのに、探してもなかなか会えない。
「まっ、と合流できただけでもラッキーだけど」
「・・・そうだね」
を慰めるためなのか、生来の明るさか、それともその他の理由か・・・・藤代は弾んだ声を上げた。
藤代と合流できたことは、にとってもすごく幸運なことだったので、彼女の顔にようやく笑みが浮かぶ。
藤代とは幼馴染だ。幼馴染、とはいっても、単に幼稚園が一緒だった、というだけなのだが。
しかも、小さかったから無理もないのだが、例えば、藤代が元気いっぱいに保育室を走り回っていたとかそれでよく先生を手こずらせていたとか、は折り紙が上手だったとか人懐っこくて誰とでも仲良しだったとか、お互いにそういった断片的なことしか覚えていない。
学区の違いから小学校は別々に進み、中学校は前述の通り、藤代は武蔵森で、は桜上水へ。
サッカーを通して再会した時には、二人して相手の成長した姿に驚いたものだ。その後特別な進展があったわけではなく、時たま連絡を取り合うくらいの”友達”、といった感覚だった。少なくともにとっては。
それでも、この殺人ゲームの中で、自分と少しでも繋がりのある人に出会えて、は嬉しかったのだ。
「大丈夫だって!」
思考に沈んでいたは、藤代の元気な声に我に返った。
彼の後ろに座っているのだから顔は見えないが、その顔が笑顔であることが、何となく分かった。
「キャプテンも、三上先輩も、間宮も・・・・それにお前んとこの水野や風祭達も、きっと無事だって! みんな、そう簡単に死ぬような奴じゃないもんな。
きっと、大丈夫だって!」
力強い声だった。
その明るい言葉に、は掬われるような思いだった。
みんなの無事を願っていたのは本当、でもどこかで彼らに何かあったのではないかと心配していたのも本当。
信じていたい気持ちと不安な気持ちで揺れていたの心を、藤代はまっすぐに信じる方へと導いたのだ。何の確信も無いのに、どうしてだかその言葉を信じさせる何かがあった。
それはきっと、彼が持つ前向きな力によるものだろう。
どんな時でも明るく、迷わずに進んでいける力。
「・・・うん、そうだね。ありがとう」
は微笑った。そうして思った。
彼はまるで、例えるなら真冬の太陽だと。凍りつくような空気の中、温かく照らし出してくれる。
「よぅし、じゃあ、ちゃっちゃとみんなを探し出すか!」
「うん!」
は笑って、藤代に掴まる手に力を込めた。
折りしもその時、雲間から久方の太陽が顔を覗かせていた。





<END>










ホイッスル初ドリーム小説。
読むことはあっても書くことは無いだろーなーと思ってましたが・・・・実はバト笛の方でいくつかネタが浮かんできて、こうして書くのに至ったわけです。
でも何せ笛でドリームを書くのは初めてなので、難しかったですね。短い話とはいえ。何かこっ恥ずいし。
まぁ何はともあれ、さんが少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


2005年1月1日



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