天国と地獄



1  渋沢…C
2  畑 …C
3  木田…C
4  椎名…B
5  間宮…A
6  若菜…C
7  黒川…B
8  郭 …A
9  藤代…A
10 水野…C
11 鳴海…A
12 小堤…B
13 谷口…C
14 内藤…C
15 桜庭…B
16 伊賀…B
17 上原…C
18 杉原…B
19 風祭…D
20 真田…C
21 小岩…D






「…何、これ?」
怪訝そうな顔をして翼が摘み上げたのは、リビングのテーブルの上にあった一枚の紙だった。彼も含む、東京都選抜チームの背番号と名前が並び、その右横にはA〜Dまで四段階のアルファベット。グループ分けにしては数がちぐはぐなことから、何らかの評価かと思われる。
「どーせまた、何か怪しいことでも企んでるんだろ」
「人が書いた物を勝手に見るなんて、マナーに反するわよ」
トイレか何かで席をはずしていたらしい玲が、翼が許可もなくその紙に目を通していたのに対し非難めいた視線を送る。企む、という物騒な単語はスルーで、しかし翼からその紙を取り上げる素振りもない。
「ま、いーじゃん? 都選抜チームなら俺も関係者だし。えーっと、どれどれ…」
翼は悪びれずに言い、まずは自分の名前の欄を見る。
椎名…B
「何で俺がBなんだよ!?」
CやらDやらがあるから、まさか血液型などではないだろう。
己の実力に自負がありプライドも高い翼は、自己の評価が最高ランクではないことに不満の色を隠せない。
「確かにあなたは実力があるし、頭の回転も速いわ。でも、体格面を考慮すると…」
「どーせ俺はチビだよ!!」
玲の冷静な分析に翼は一気に機嫌を損ね、同じくチビ仲間の風祭将の欄に視線を移す。
「将が…D? 珍しいじゃん、玲が将にこんな手厳しいなんて」
自分もそうだが、玲もまたあの素直な少年が内に秘めた才能を高く評価している。技術は他のメンバーより劣ってはいるが、それを補って余りあるものが彼にはある。
それ故に、その将に最低のDがついたことを、翼は素直に驚く。
「風祭くんはね…体格もそうだけど、時にはその素直さが仇になることがあるわ」
「まー確かにあいつ馬鹿正直だけど…」
その将をやたらと気にかける、過保護な10番もついでに見てみる。
「水野はCかよ、キッツー」
言いながら翼は苦笑する。玲はチームの司令塔として水野を育てたいようだし、翼も彼の実力は過去の対戦もあって認めている。しかし、いかんせん水野はメンタル面がまだまだ未熟であり、だからこそのこの評価なのだろう。基本スパルタの玲らしい。
「水野君は精神面がカギね。実力はあるから、一皮むければ或いは、いい線いくかもしれないわ」
翼は今度は一番上を見る。東京都選抜チームのキャプテンである渋沢も、水野と同じくCだ。
「何で渋沢がC? 精神的には、それこそ問題ないだろ」
渋沢のゴールキーパーとしての能力は、同世代なら全国でもトップクラスだ。性格もいたって温厚、年齢詐称疑惑があるくらいに落ち着いている彼が、何故この評価?
「確かに彼の能力は申し分ないわ。でもやっぱり問題は性格かしら…。普段の生活の中なら利点でも、違う局面ではマイナスとなることもあるから」
「ふーん?」
何だか将と同じようなコメントだ。
翼は後は、その渋沢の下から順に見ていく。藤代、鳴海、郭はA。この辺は順当。間宮もAが付いている。確かにボランチとしては優秀だけど…ちょっと引っかかる。
郭と同じU−14メンバーの筈の真田、若菜は共にC。厳しすぎやしないか? 真田に関してはまぁ分からなくもないけど。
ざっと見るとB・C評価の者が多い印象だ。Dに至っては、風祭と小岩の二人しかいない。まぁもともとこの二人は補欠枠での選出だから、納得と言えば納得なんだけど…。
「さ、もう充分に見たでしょ、返して頂戴」
「はいはい」
確かに、もう充分だった。
翼は玲に紙を返しつつ、どーせやっぱり、また良からぬことでも企んでるんだろーな、程度にしか考えなかった。次回の都選抜チームの練習メニューがきつくなるとか、ことに低評価の者に対してはさらなるしごきが待ってるとか。
ま、監督がこんなんだからね、御愁傷様。
自分はこのはとこの性質は嫌ってほど知っているからと、どこか他人事のように心の中で呟いて、翼は二階の自室へと戻っていった。
トン、トン、と階段を登る足音がすっかり消えてしまってから、玲は小さく溜め息を吐く。
「まったく、翼ったら」
見られてしまったのは本当に迂闊だった。こんな場所で書くものではなかった、と玲は率直に反省する。
けれど聡い翼もサッカーに関しての評価だと思い込み、深くは追求してこなかったのは僥倖だった。ABCDのみで、詳しく書かなかったのも功を奏した。
「……まぁ。まさかあの子も、思わなかったでしょうね」
この都選抜チームのメンバーの横に書かれた評価が。
「プログラムに選ばれたこのチームの、優勝者の予想だったなんて」
政府からお達しを頂いたのはつい先日だ。
中学三年生における通常のプログラムだけではその生徒達を観戦し賭けの対象にしていた政府高官達が飽きてきて、更なる刺激を求め始めてしまったので。
もっと変わった括りでプログラムを開催することが、秘密裏に決定したのだ。そう、例えば一種の能力に秀でた者達同士で殺し合いをしたら、どうなるか―――。
そしてその栄えある第一回に選ばれたのが、東京都選抜チームだった。
高い能力を持った子ども達を一度に大勢亡くすのは惜しいが、何、まだ全国の各地域には優秀な選手がたくさんいる。
むしろ、記念すべき初開催に招かれたことは、この上なく光栄だった。だから玲はその知らせを聞いて、一も二もなく頷いた。
実はその日は、もうすぐそこまで迫って来ている。
きっと子供達もその名誉を有り難く受け入れ、素晴らしい戦いぶりを見せてくれるだろう。
(さて、私は誰に賭けようかしら)
己が手で教え子達の死刑執行書にサインしたも同然なのに、玲は鼻歌も歌うような表情で手元の表を見る。
誰が優勝者かを当てるトトカルチョに、なけなしの給料の一部を賭けるのだ、真剣に検討しなければいけない。
プログラムに置いて、誰が有利に立ち回れそうか。誰が優勝できそうか。
玲はもう一度、楽しげに教え子達について考えるのだった。




END








「赤と朱」と同じく翼くんと玲さんの話でしたが、こちらはバト笛が流行っていた頃よく見かけた『プログラムに子ども達を参加させることを何とも思っていない玲さん』です(笑)
何かこー、いつものお遊びの延長線上でやってるよーな感じの…。
今までの100のお題の中で、意外に書いてそうで書いてなかったトトカルチョ関連の話を書いてみたいと思い、こんなのになりました。
久々に都選抜チームの一覧を書こうとしたら、数人しか背番号がそらで分かんないでやんの…。昔は8割方は把握してたんですが。


初稿:2012,10,26











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