一度離れてしまったら、
また逢えるかどうか分からないのに




出逢って分かれて




増え続ける禁止エリアのおかげで移動範囲が狭まって、それでも再会できたことはすごい偶然だった。
「小島?」
「・・・水野?」
あたしはもうすぐ禁止エリアとなるそこから抜けようとしていた途中で、水野は逆にそのエリアに入っていくところで。
「何でそっちに行くの? もうすぐ禁止エリアになるよ」
「知ってる」
あたしの言葉に聞く耳持たず、水野はあたしが元いた場所へと向かおうとする。
まさか死ぬ気じゃないだろうな、コイツ。
「・・・・風祭、どっかで見なかったか?」
あたしに背を向けたまま、水野はごくごく静かに言った。見てないよ、とあたしも短く言葉を返した。
溜息が聞こえる。
ああ、そっか。仲が良かったもんね。サッカー部を立て直した頃から、ずっと一緒にやってきたんだもんね。
やっぱり気になって、探してるんだ。
まだ死亡したって放送は流れてないから、まだこの島のどこかで生きているはず。だったら、できればあたしももう一度あいつに会いたいけど。
水野はポケットから情報端末みたいのを取り出して、ボタンをいじっているようだった。覗き込むと、液晶パネル上に地図が浮かび、白く点滅する点が三つ見えた。そのうちの二つは隣接している。
「何、これ」
「探知機。参加者の居場所が分かるんだ。・・・・そいつが生きてるか死んでるかまでは分からないけど」
成程。つまりこの二つの点はあたしと水野か。
じゃあ、もう一つの点は誰だろう。あたしはこのエリアに潜んでから、水野以外の誰とも会ってない。
「この辺で誰かに会ったか?」
水野もあたしと同じことを考えたらしい。あたしはただ黙って首を振る。
水野はほんの少し気落ちしたような顔になって、けれどすぐに何かを決意したような顔に戻った。そうして再び歩き出す。
「ちょっと、」
「この点が誰か、確認してくる」
あたしの言葉を遮って水野はそのまま行こうとする。あたしは彼の前に回って、一旦その足を止めさせた。
「さっきも言ったけど、もうすぐ禁止エリアになるよ、ここ」
「分かってるよ。だから行くんじゃないか。・・・・もし、これが風祭だったら。たとえ死んでいたとしても、俺は風祭に会いたい」
「・・・・探してるんだ? じゃあ、あたしも一緒に」
けれど水野は首を振った。
「駄目だ。いくら探知機があるって言っても、探すためにあちこち歩き回ってるんだから危険は大きい。小島まで巻き込めない」
「でも、」
一度離れてしまったら、また逢えるかどうか分からないのに。
そう、また逢える保証はないんだ。
今度再会するまでに、あたしとこいつのどちらかが、死んでいてもおかしくはないのだから―――。
「水野」
でも、
「あんただって危ないんじゃない」
「俺のことはいいから、早くこのエリアから出るんだ」
「だからあたしも一緒に行くってば!」
「駄目だ!」
水野は、
「ここから出て、早く安全な場所に身を潜めるんだ。その方が、小島にとってはずっといい」
あたしの言葉に、決して頷いてはくれなかった。
あたしも『行かないで』と、どうしても言えなかった。
「・・・・・・・・分かった」
あたしが、頷くしかなかった。
水野はやっと、ほっとしたような表情になった。
「風祭に会えたら、よろしく言っといて。それで、もしできれば・・・・・また三人で会いたいって」
震えそうになるのを何とか堪えて、あたしは笑顔を浮かべた。言葉は嘘じゃない。でも表情は、精一杯の、作り笑顔。
水野も少し口の端を上げて笑んだ。あたしの気持ちには気付いてないみたい。
ううん、気付かなくたっていい。
「気をつけろよ」
その言葉だけ残して、水野はあたしの前から去っていった。
限りなく広がった空がその時だけは何故だか、酷く白々しく思えた。












「・・・・まずいなぁ、これ・・・・・・」
油断した。
東京都選抜の、名前も知らないヤツ。
不意打ちで襲撃を食らって、何とか逃げおおせたけど。腹に負った怪我から血が止まらない。
力も段々抜けていく。
ああ、あたし、死ぬんだなぁ・・・・・。
「水野・・・・・」
ぼんやりと空を見上げる。別れた時と同じ青空。
あれからもう丸一日経ってるけど、結局再会することは叶わなかった。
そのかわり、彼の名前が放送で呼ばれることもなかった。そして、風祭の名も。
水野の姿を思い描きながら瞼を閉じる。サッカーをみんなでやっていた頃の幸福な時間が甦る。
知らず笑みが浮かんだ。けれどすぐに口の端が落ちる。笑う力ももう無いみたい。残念、だけど。
・・・・・そうして迎えた最期の瞬間に、あたしは自分の想いを伝えられなかった未練よりも、強く疑問符を浮かべていた。水野。水野は。



―――水野はあの後、彼に会えただろうか?






<END>












一応淡い水野←有希だったんだが・・・・何だかわけわかめな話に(汗)
ってか「出逢って分かれて」のタイトルで、原作バトロワの琴弾を探す杉村が七原達と再会してもまた去ってしまう〜なシチュしか思い浮かばず、なら水野と有希ちゃんと将だろうと(爆)。まぁそんな感じで思いついた話です。
続編・・・というか水野と将側の話もいつか書く予定。



2005年5月29日





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