哀しいと感じる心があるのなら



悲しいとか辛いとか、そんな感情は、もう、とっくに通り過ぎてしまった。
六助も直樹もゲーム開始早々に死んでしまって、俺のクラスには、俺とその二人しかサッカー部はいなかったから、あと残っているのは、大して仲も良くないクラスメートと、普通に友達してた連中だけ。
だったらもう、躊躇する必要は無いだろ?
守りたかった仲間は死んで、あとは俺自身が生き残る以外の望みは失せたから、俺は心置きなく殺しに走ることができた。



・・・・・こんな俺を見たら、きっと将は軽蔑するだろう。
・・・・・こんな俺を見たら、きっと玲は「馬鹿なことして」と言うだろう。
六助や直樹は、そして俺達が修学旅行から無事に帰ってくる事を疑いもしていない柾輝と五助は、どう思うだろう?



―――いや、どう思われたっていい。
だって俺は、どうしても生き残りたい。六助と直樹のためなんて、殊勝なことは言わない。
俺は、俺自身のために生き残りたいんだ。
あの頃に帰りたい。ただそれだけなんだ。
たとえ叶わなかったとしても、今となってはそれが、たった一つの行動理念。




水を張ったバスタブに顔を突っ込ませて。
或いは階段から突き落としたり、油断したところをナイフで刺したり。
ああ、これじゃまるで、二流サスペンスドラマだけれど。
ゲームとは言っても、俺は間違いなく殺人を犯してる。
悲しいなんて思わない。
哀しいなんて感じない。
哀しいと感じる心があるのなら、もうそんなものはいらない。
そんなものはいらないから。
元通りの、平和な楽しい日常が欲しい。




<END>







最初は、もっと普通に(?)殺る気の翼くんを書こうと思ったんだけど・・・どうしてこんな話になってしまったのやら。つか、短っ(殴)




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