もう、何も見たくないんだ。








瞼を閉じる






「修学旅行、楽しんでこいよ」
「うん。すぐ帰ってくるから、あんまり寂しがるなよ」
「ばっ・・・・何言ってんだよ、椎名っ!」
「あははっ。水野ってばいい反応♪
・・・・じゃあ、行ってくるよ」
「ああ、気を付けてな」





夕食を食べて、テレビを見てくつろいできた時。
ソレ、は不意にテレビ画面に映し出された。
赤と黒の毒々しい色合いが、突如画面を支配する。
もうこの国では恒例になっていた、バトルロワイアルの臨時ニュースだった。
またどこか、悲運な中学三年の少年少女が望まぬ殺し合いをされられたんだな、と、どこか他人事のように竜也は見ていた。
ニュースキャスターが淡々と、開催地と開催日時、そして対象クラスを述べる。
「対象となったクラスは、飛葉中学校3年1組です」
―――その瞬間から、他人事じゃなくなった。
「え・・・・?」
呆然として、何も考えられない頭のまま、竜也はテレビにふらふらと近付いた。
すぐ目の前のちかちかとした画面を焦点の合わない目でじっと見つめている。
テレビは緑に溢れた島を遠景で映し出し、次には優勝者と思しき少年の姿を捕らえた。
それは、見知った飛葉中の少年ではなかった。
井上でもなく、畑でもなく―――そしてあの、椎名翼でもなかった。
真っ白になった頭の中が、今度はぽっかりと空洞になったようだった。そんな竜也にお構いなしで、テレビは次々と映像を映す。
もうこれ以上何も見たくはなかったのに、画面から目が離せなかった。
動けずに居る竜也の前で、テレビ画面はあるものを映した。
それは、港に無造作に山積みになった生徒達の死体だった。




その中に、椎名翼の姿もあった。





















―――限りなく静かな、潮騒の音。
蒼く濁った海と、沖を行く船と、はるか遠く点々とした島々をぼんやりと見ながら、いや、もしかしたらもう何も見えてはいないのかもしれないけれど、竜也はずっと、待ち続けていた。
もう、帰ってくるはずのない少年を。
「帰ってくる」
誰にともなく、或いは自分に言い聞かせるように竜也は呟いた。
「すぐ帰ってくるって、言ってたよな」
狂っているかもしれないと、頭の片隅で思いながらも、それでも竜也は待ち続けた。
「椎名。早く帰ってこいよ」
もう、決して帰ってくるはずのない少年を。






そうして彼は、瞼を閉じた。






<終>









久々のバト笛。某所で「小節版は死体が港に山積みに〜」というのを見て、ああそういやそうだったなとパッと浮かんだ話がこれ。ある意味、1「死合開始」の水野バージョンとも言える。
翼くんは何とか前向きにやっていけそうだけど、何となく水野はぶっ壊れちゃいそうなイメージがあるんだよなぁ・・・・。
同じようなパターンで、前向きにやってこうとする水野の話もいつか書いてみたいです。
冒頭の二人の会話、本当はもう少し長かったんですが、水野がなんかキモくなったのでカットしました(爆)

2005年11月27日







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