「一枚、二枚、三枚・・・・・・・
・・・・・一枚足りない」




嘲笑う井戸




偶然、再会した桜庭と設楽。
大して仲が良いわけではなかったが、夏の選抜合宿で共にAチームだった、という繋がりがあった。
とりあえず、一緒に行動する、ということに決まり、二人は夕方の農道を歩いていた。空を藍色が支配し始め、辺りは薄暗い。道の途中、一軒の民家を見つけ、何となく、二人は立ち寄った。
塀代わりの垣根を通り抜けて庭に入ると、そこは雑草が高く伸び、生い茂っていた。あまりよく手入れはされていないようだ。
その草むらの中に、隠れるようにして、古ぼけた井戸があった。
「こーゆー古井戸見るとさ、番町皿屋敷思い出すなぁ」
楽しそうに、ぽつりと呟いた設楽に、桜庭は眉をひそめる。
「は? 何だソレ」
「ほら、皿数えてる幽霊の話だよ。『一枚、二枚・・・・・・一枚足りない』」
「ああ、それか」
そう説明されると、その怪談に思い当たった。
家宝の皿を割った罪をなすりつけられ、主を恨んで、井戸に身を投げて死んだ女の話。確か、”お菊さん”と言ったか。日本の伝統的怪談だ。
「俺はどっちかって言うと、貞子の方思い出すけどな」
「あはは、言えてる」
桜庭のような現代っ子の感覚なら、成程、古式ゆかしい怪談より、話題になったホラー映画の方を思い出すことだろう。
「何か、いかにも、って感じの井戸だよな。覗いたら、何か出てきたりして・・・・」
桜庭は井戸に近付いた。設楽も、それにならって、後ろからついていく。
井戸を構成している石は古く、表面がぼろぼろになっており、所々に苔が生していた。
中に水は、まだあるのだろうか。
好奇心で、井戸の中を覗き込んだ桜庭は、予想に反して、その井戸が空井戸なのを知った。存外、深いということも。と同時に、背中を押される感覚。
え、と思う間も無く、桜庭は井戸の中に落下していた。
首の骨が折れでもしたのだろうか、ゴキ、という音が底から響いてきて、設楽はクスクスと笑った。
「呆気ないなぁ。こんなゲームの中で、人を信用した君が悪いんだよ。
・・・・・俺を恨むんなら、化けて出てきても構わないよ。出てこれたら、の話だけどね」
井戸の底の暗闇に、投げかけるようにそう言うと、設楽はその場を去っていった。
後にはただ、古ぼけた井戸が、残っているだけ。




<END>








なーんか、ヤマなし意味なしオチなしって感じの話だなぁ(いや、変な意味ではなくて)
まだ書いてないメンバーでこの話を書こうと思って、真っ先にイメージが合ったキャラは杉原と小岩だったんだけど、ありがちかなと思って設楽と桜庭にしてみました。
・・・・でも、こんな話でゴメン。

2004年9月12日





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