絶対に手に入らないと分かってると、逆に無性に欲しくなるやろ?
人のモノなら、余計に。
せやから、ぼくは、





目の前で死んだ人





藤村の視線の先には、いつもアイツがいた。
ぼくといても、ぼくを見ていても、藤村の目には、ぼくは映っていない。ぼくを通り越して、遠くにいるアイツを見てる。
ぼくが藤村を見ていても、それにちっとも気付かずに。
―――なぁ、今、お前の傍に居るのは、ぼくやで?
しっかりと、真正面から見据えてくれや。
ぼくを見ているのに、本当はぼくじゃない奴を見つめてるなんて。
・・・そんなの、あんまりやないか。



思えば、最初に会った時からお前に惹かれていたのかも知れない。
初めはただ、一緒にサッカーできて、それが楽しくて、それだけで良かったのに。
いつから、こうなったんだろう? ぼくを見て欲しい、そう焦がれるようになったのは。
思えば、多分、それはぼくは藤村にとってただのチームメイトでしかないのだと、気付いてしまったあの時から。
それからはずっと悔しくて歯痒くて、苦しかった。

藤村に見て欲しかった。アイツじゃなくて、ぼくを、ぼくだけを、
ぼくだけを見て欲しかった。
どんな形でも。





「アホくさ。こんなゲームやっとられんわ」
「! ノリック!?」
だから、担当教官に逆らったのはわざと。
そうすれば、藤村に、きっと、
見てもらえる。
「ぼくは降りる。後は勝手にやっとくれや」
銃が向けられる、それも承知の上。分かってた、逆らえばどんな目に合うか。
それでも構わない。
藤村がぼくを見てる。
ぼくだけを見てる、アイツじゃなくて。
「ほなな、藤村」
叫ぶお前の目には、きっとぼくだけが映ってるはず。
今まで、どれだけお前がアイツを見ていたとしても、最後は、最期の今この時だけは。
お前の心は、ぼくだけのモノや。
なぁ、藤村―――。




<END>










浮かんでいた案がふと形になって、一気に書き上げたもの。
何かノリック、腹黒・・・。でも、まぁ、それを意識して書いたので。正確には、腹黒というか歪んだ恋心というか。
シゲの相手は、特に決めてません。将でも、翼くんでも、水野でも、好きに想像なさって下さい。私的には、一応将ではあるのですが、当初の案では翼くんでした。


2004年5月16日





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