回想は逃避


河川敷。
どこか虚ろな目で、それでも笑いながらサッカーボールを蹴る二つの人影があった。
高井と森長だ。
「・・・・楽しかったな」
「ああ」
懐かしい思い出話をしながらボールを蹴り合う。二人の脳裏にあるのは、あの熱かった夏のことだ。
水野、風祭を中心として再び始動した桜上水サッカー部。佐藤が戻ってきて不破も参入しとメンバーが充実し、試合も順調に勝ち進んだ。喧嘩やトラブルも絶えなかったけれど、今となってはそれもいい思い出だ。
その四人はもういない。
全国の中学生を対象とする殺人ゲーム、プログラム。今年選ばれたのは、彼らの所属する東京都選抜と、その関係者数名だった。
優勝者は一人。帰れるのは一人。
だからせめて、高井と森長は四人の内の誰でもいいから、誰かに帰ってきて欲しかった。
けれど誰も、帰ってこなかった。
「風祭の奴、よくこーやって練習してたよな」
「水野だって、早朝ランニングとかやってたっけ」
「シゲは・・・・どーだろ。何か練習してたんかな」
「さぁなぁ。不破は何だかんだで特訓してたみたいだけど」
そのプログラムの結末は時間切れだと聞いた。制限時間内にゲームが終わらず、しかも結構な人数が残っていたらしい。
仲の良かった彼ららしいな、と思った。
「楽しかったよな」
「ああ」
そうして楽しい日々のことを思い出し。
二人はただ、ボールを蹴る。




<END>











目立たない人達に愛の手を企画。
この二人って、そーいや書いてないな、と。この二人は結構好きなので、別のお題でも書いてみたいですね。



2005年2月6日



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