放送


「はーい、おはよーございまーす! みんな元気に殺ってるかなー?」
努めて明るく元気よく。決して悲壮感など漂わせてはいけない。
「それでは、朝の放送を始めまーすっ!」
それが彼女に与えられた仕事。
「まずは死亡者から。笠井竹巳くん、鳴海貴志くん、畑五助くんでーす」
教え子がいないことに安堵しつつ。ああ、でも、3人も死んでしまった。
「みんなとっても頑張ってて、夕子先生、嬉しいわv」
嘘。そんなこと、ちっとも思ってないくせに。
「禁止エリアはB−3、F−1、G−5でーす。それじゃあみんな、これからもFightよ!」
言い終えると、夕子はいたたまれない気持ちのまま、ゆっくりと放送のスイッチを切った。溜息が漏れそうになるのを、口元が歪みそうになるのを、必死で我慢する。
「夕子先生、今回の放送もなかなか良かったですよ」
「え、ええ、そうですか? ありがとうございます」
見張りの兵士が賛辞を述べる。本心かお世辞かは定かではないが、どちらにしろちっとも嬉しくない。じわじわと迫りゆく死の恐怖を、子ども達に伝える放送なのだから。
「それでは、自分はモニター室に戻りますが、夕子先生は・・・」
「あ・・・私はもうしばらく、ここに・・・」
「そうですか。できるだけ早めにお戻りください。では、これで失礼します」
ばたんとドアを閉めて兵士が去っていく。夕子の他に誰もいない放送室は途端にシンとなる。
夕子は先ほど読み上げた、死亡者と禁止エリアが書いてある紙を、思わずくしゃりと握り締めた。力がこもるその手に、ぽたぽたと涙が落ちてきた。
「どうして・・・どうしてこんなことに・・・」
今回のプログラムの対象に、東京都内のサッカー少年達が選ばれたのがすべての始まり。
少年達は参加を余儀なくされ、彼らに関わる大人達も協力させられた。
断れなかった。反抗もできなかった。死ぬことがただ怖かった。子ども達の恐怖は、その比ではないのに。
「ごめんなさい、みんな・・・」
子ども達に、裏切り者と思われても仕方がない。自分達を助けようとしない薄情者呼ばわりされても無理もない。
それでも構わないと思った。確かな事実だったから。
「・・・泣いてはいけないわ、香取先生」
「・・・・! 西園寺さん・・・・」
いきなり声をかけられ、夕子は少なからず驚く。彼女がいつの間に部屋に入ってきたのか、まったく気が付かなかった。彼女も、このゲームに協力されられている一人。
「いつ政府軍の者が来るか・・・それに、泣き腫らした目をしていたら、反逆の意思ありと見なされてしまうわ」
「でも! 私はみんなが、みんなが可哀相で・・・・!」
反逆の意志も何も、端からこんなゲームは望んでない。子供達はきっと尚更。だから、悲しくて。
泣き続ける夕子を、玲はただじっと見ていた。そして、ゆっくりと口を開く。
「―――辛いのはみんな一緒よ。私達は、ただ子ども達を待つことしかできない。最後に、傷ついて戻ってきた子を抱きしめて、ごめんなさいと言うことしかできない・・・」
「西園寺さん、」
「涙は、その時までとっておきましょう」
玲の、何かに耐えるような横顔を見て、夕子はああ、そうだ、と思った。
ああ、そうだった。
担当教官として、子ども達に死の宣告をしなければならなかったこの人が、辛くないはずがない。
辛いのは自分だけではないのだ。
「そろそろモニター室に戻りましょう。ずっとこの部屋にいたのでは怪しまれるわ」
「ええ、そうですね」
「それに・・・あの子達が懸命に生き延びようとする様を、見守ってあげなくては」
「ええ・・・」
どんな経緯があったにしろ、この道を選んだのは自分達。
悲しくても辛くても、政府に従ってでも。プログラムが執行されても、それでも最後の一人は、確実に帰ってくるこの道。
二人は放送室を出た。
子ども達の行く末を見届け、そして、最後の子が戻ってくる、その時を待つために。





<END>





放送を聞く側、ではなく、放送をしている側の心理を書きたいと思いまして。
で、玲さんだと結構乗ってゲームを進めているパターンが多い気がするので、明るく元気で、でも実は葛藤してそうな・・・ってなわけで夕子先生にしてみました。夕子ちゃんって、空回りしてること多いけど、結構子ども達のこと考えてると思うのですが・・・・。



2003年11月30日







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