まさか、こんなことになるなんてね。
あたしは、自嘲気味に呟いた。


まさか、桜上水中学校の3ーB、あたしのクラスが、プログラムに選ばれるなんてね。




ライフル少女




みんなが普通に仲が良くて、まとまりも普通で、どこにでもあるような平凡なクラス。それが3−Bだった。
殺したいほど憎い相手がいるわけでもなく、逆に、何が何でも守りたい人がいるわけでもなく(ああ、でも、強いて言うなら、水野には死んで欲しくないな。なるべくなら)。
それでも、あたしは戦うことを選んだ。生き残ることを選んだ。
だって、伝えたい想いがあるんだもの。
あいつに。
今あたしがこうしている間も、苦難を必死で乗り越えているあいつ―――風祭 将に。



最初にあいつを見たのはいつだったかな?
ああそうだ。補欠組対レギュラー組の、キャプテンの座をかけた試合。
頼りない奴だと思った。そのころのあいつのサッカーは、あたしよりずっと下手だったしね。
でも―――何故か目を離せないプレーをする。あいつが持つ強さ、「諦めない気持ち」、それはその頃からあって、その気持ちがあったから、勝てた。もちろん、勝因はそれだけじゃないけど。
武蔵森戦だって、実は見てたのよ。負けはしたけど―――あの試合、めちゃくちゃ、あんたかっこよかった。他のみんなもかっこよかったけど、風祭、あんたの姿が一番印象に残ってる。



あたしがレギュラー落ちした高井と勝負した時。
あんたが、一緒にサッカーしようって言ってくれて、あたし、すごく嬉しかったんだよ。だって中学に上がってから、そう言ってくれた人、いなかったもの。
国部二中との練習試合のスタメンのことで揉めた時も―――水野の言葉も、あたしのこと考えて言ってくれてて、嬉しかったけど、風祭、あんたの言葉で、女子サッカー部作るって、勇気が出たのよ。
楽しかったな、思いっ切りサッカーできて。
その頃からかな? 風祭を、「男の子」として意識するようになったのは。
気が付いたら、いつの間にか、すごく、すごく好きになってた。
もしかしたら、みゆきちゃんの存在のせいもあったかもしれない。彼女が、あんたを好きだ、って気持ちにあんまり真っ直ぐだから、あたしも、自分に隠されてた思いに、気付いたのかもしれない。
こんな性格だから、告白しようなんて、思わなかった。ただ、サッカーしてるあんたを見続けられたら、それでいいと思った。
洛葉戦で、泥だらけでぶつかっていく姿。飛葉戦での同点ゴール。明星中に敗れたときのあんたの背中。今もこうして、しっかりと目に焼きついてるのに―――。



あんたは今、リハビリを頑張ってる。ナショナルトレセンの合宿で怪我した左足―――。
あんたにとって、サッカーできないってのは、どんなに辛いことだろう。
あたしも、サッカーできない辛さを知ってるから、よく分かる。その辛さ。悔しさ。でも、それ以上に、きっとあんたは辛い。
それでも、あんたはきっと乗り越えるだろう。絶対に諦めずに。それが、風祭、あんただから。
その苦難を乗り越えた時、また、あんたのプレーが見られると思った。
何年先でも、待ってようと思った。あたしも、あんたに負けないように、頑張ろうと思った。
なのに。
もう、すぐ側であんたのサッカーを見られないんだね。
このゲームでの生存率は何%?(ああ、確率論は不破が得意だっけ)
もうサッカーができない。あんたに会えない。そう思ったら、不思議と・・・・・・
伝えるはずのなかった気持ちを、急に伝えたくなったのよ。あんたのことが好きだ、って。
クラスメートを殺してまでして、伝えるほどのことじゃないのかもしれない。でも、でもね。
あたしにとっては大切なことなの。
恋するオトメは強い、って言うけど、それかしら?
どうせ死ぬって思ったら。
言っておきたいって、思ったのよ。







風祭。
あんたと違うクラスでよかった。
あんたと殺し合わなくてすむから。あんたが死ななくてすむから。



水野。
あんたと同じクラスでよかった。
もしもあたしがダメだった時、あんたに任すことができるから。
あたしの、風祭への気持ち。どうかあいつに届けてね。





でも、できれば。
できることなら、自分で届けたいから。
だからあたしは。



銃を手に、戦うことを選んだのだ。








もしもあたしが、無事に帰ることができたなら。
風祭。
あなたはいつもの笑顔で、あたしを迎えてくれるかしら?






<END>











「ライフル少年(もしくは少女)」ということなので、少女にしてみました。
将←有希です。有希ちゃん大好きです。何ていうか、色々と強くて。可愛いし。
将有希のCPも好きです。原作じゃ、結局誰ともくっつかなかった将と有希ちゃんですが(でも、将はみゆきちゃんとくっつかんで良かった・・・)、アニメ版じゃ、結構将有希っぽいとこあるんですよね。
それはともかく。
有希ちゃんが3年生に進級した後のバトロワ。原作の最終回からして有り得ないのですが(それいったらバト笛自体有り得ないんですが)。桜上水は2、3年はクラス持ち上がり・・・ってことで書いてみました。3−Bになっちゃうんだよね・・・。
有希ちゃん一人称小説でした。「あたし」にするか「私」にするか迷ったのですが(原作じゃ両方あるし)、「あたし」の方が地っぽいなと思ってこうしました。
最後の連が、個人的にお気に入りです。



2003年6月29日









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