火達磨



ろくに手当てしてない怪我も、血に濡れた服もそのままに、成樹はソファーに腰を下ろした。
ゲームが開始してから二日以上経っていた。生き残ったのは彼一人だけ。
「優勝おめでとう、佐藤くん」
「・・・どーも」
向かい合って座る担当教官の言葉に、無愛想に頷く。祝福なんかされたくなかったし、されてもちっとも嬉しくない。
「疲れただろう。さ、一杯どうだ?」
ねぎらいのつもりだろうか。
成樹は担当教官から差し出された酒を煽った。こんな不味い酒は初めてだった。
「それにしても、なかなか白熱したゲームだったな、今回は。サッカーをやっている少年達で、というのも斬新だったし。まぁ、結果的に優勝は一番人気の佐藤だったけどな」
「人気?」
わはは、と笑う担当教官を、成樹はじっと睨み付ける。
「ああ、ここだけの話なんだけどな、プログラムが行われるたびに、誰が優勝するか、政府の高官達でトトカルチョをするんだよ。先生みたいな担当教官も参加することあるけどな」
得意気に話す男は、成樹の瞳に次第に昏い光が宿っていくのに気付かない。
「先生は佐藤に賭けてたから、大分儲けさせてもらっちゃったよ。途中何度か危ない場面があったけど、何とか切り抜けてたもんな、流石は佐藤だよ」
「―――もう一杯、貰えんか?」
話を遮るように、成樹は空になったグラスを差し出した。担当教官は上機嫌で酒を注ぎ、自らのグラスにも注ぎ足す。
「お、結構いける口だな、佐藤? どうだ、今度一緒に飲みに・・・・」
「誰が行くかい、そんなもん」
吐き捨てた言葉には、成樹が思っていた以上に怒りの色があった。
「さ、佐藤?」
思わずびくりとする担当教官を尻目に、成樹は低い声で続けていく。
「胸っくそ悪いわ・・・チームメイトや顔見知りやらと望んでもない殺し合いさせられて、死んでいく奴らも助けられなくて、いつの間にか俺なんかが優勝で、帰ってきたら、誰が生き残るか賭けしてるやて? ふざけとるのにも程があるわ」
そこで一度言葉を切り、成樹はふうと息をついた。彼の内にあるのは激しい怒りだ。激し過ぎて、逆に穏やかになってしまう程の。
担当教官は内心恐れを抱いた。表面上は静かだが、この男は何をするか分からない、そんな気がした。ただ、成樹は今は丸腰だ、何か仕出かすにしても、銃を持った自分には敵わないだろう―――そう思って、ほくそ笑んだ。先手を打って、懐から銃を取り出そうとした。その時、
「!?」
何かの液体が彼の身に降りかかった。それは成樹が先程の酒を彼に浴びせたからだったが、それに気付く間もなく、彼は火に包まれた。
「う、ぎゃあああああ!??」
成樹がポケットから取り出したライターの火は、酒に引火して確実に担当教官の全身に広がった。男は何とか火を消そうとするも、一度燃え広がった火はなかなか消えない。成樹はただ冷静に、いや、冷酷と言うまでに冷たい視線で、火達磨と化した男を見下ろしていた。
「あいつらの苦しみ・・・少しは思い知れや」
やがて男は力尽き、燃え上がる火はそのままに倒れ伏す。
焔に照らされてぎらぎらと煌めく髪をかき上げて、成樹はクッと笑った。
「あんたみたいな奴には、似合いの末路やな」



<終>










「火達磨」・・・このタイトルからするに誰かをそんな目に合わせねばならない、しかし大好きな笛キャラ達をそんな目に合わせたくはないっ!!
・・・・そんなわけで名も無き担当教官をそんな目に合わせてしまいました(酷ッ)
でも本当に、いくらバト笛でもなるべく笛キャラ達を苦しめたくはないのですよ。
最後のセリフを言うのにふさわしいのは、やっぱりシゲでしょうってなわけでシゲが主役(?)です。



2003年9月15日



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