咆哮



「死に・・・・たくない」
―――ああ、これは水野だっけ?




「た、助けてくれ、誰か・・・っ」
怯えた声で逃げ回ってたな、小堤。




「こんなところで死んで、たまるかい・・・!」
悔しそうに歯噛みしていた直輝。




「黒川くん、よかった、無事で」
再会した時、酷くほっとした表情を浮かべていたのは風祭だ。




そして。




「マサキ、お前は絶対、生き残れよ」
血まみれの顔でも、力強く笑っていて。
翼は最期まで、翼らしいままだった。






―――もうみんな、いねぇんだな・・・・・。











「・・・・はぁ」
東京へと戻る船の中、溜息ばかりが口を吐いて出る。
俺なんかが優勝なんて、自分でも信じられねぇことだったけど。
けど、ちっとも嬉しくねー・・・。
「・・・・はぁ」
もう一度溜息。
俺は楽しいサッカーができればそれで良くて、将来はプロのサッカー選手になりたいとか、そういうつもりは最初は無かったのに。それでも自分が巧くなるのは嬉しくて、選抜でも選ばれて。
結構長いこと一緒にやってた選抜の奴らも気のいい奴ばっかだったけど、悪趣味なこのゲームでみんな死んだ。
俺だけ生き残ったけど、どんな顔して帰ればいいんだよ。
玲や翼の両親に何て言えば? 五助、六助、それに直輝の兄妹にはどんな顔して会えばいい?
直接殺してなくたって、俺が殺したも同然なのに。
「いっそ、死んじまった方が楽なのかもしれねーな・・・・」
俺らしくない台詞かもしれない。けど、こう思わずにいられない。
あいつらの命を全部背負って生きていけるほど、俺は強くなんかねぇ。
それに、楽しいサッカーできる奴がみんないねぇんじゃ・・・・つまんねぇよ。




―――お兄!




ふと浮かんだ。
ちょっとやかましくて手はかかる、けど、それでも可愛い双子の妹の顔が。
ちっちゃくて、いつも俺について回る弟の顔も。
両親が共働きだったから俺がずっと面倒を見てきた。俺があんなゲームに巻き込まれたこと、家族は知ってるんだろうか?
その間、あいつらの面倒は誰が見て―――その心配が先に来るのも我ながらどうかと思ったけど、まずそれが気がかりだった。きっと両親が何とかしてくれてるとは思うけど。
みんな俺が死んだと思って、毎日泣いてるだろうか?
せっかく生き残ったのに、俺が自殺したなんて知ったら。

「・・・やっぱ、帰るしかねーか」
これからの俺の人生が、どうなるかなんて分かんねー。
政府に一矢報いるにしても、自殺するにしても、まずは家族に会っておかないと。
とりあえず顔を見せて安心させたら、その後のことはそれから考えよう。
そう思ったら、少しだけ元気が出た。
複雑そうな顔をしながらもそれでも俺を喜んで迎えてくれる家族の姿が目に浮かんで、俺もらしくなく、懐かしい気分になった。










まさか迎えてくれる家族が既に死体になってるなんて、考えてもみなかった。










「・・・・ッ!!」
ドアを開けた途端漂ってくる死臭。蒸れるような血の臭い。
妹達も、弟も、小さな体を穴だらけにして死んでいた。両親も同じように銃で蜂の巣にされたのだろう、妹達より手前側、幼子を庇うように死んでいた。
「何だよ、これ・・・・」
怒りと悲しみと絶望とで震えながら、今更になって思い出した。
バトルロワイアルの開催について、家族達はゲームが始まる時に知らされること。
それに反対した家族はもれなく、政府軍の手によって”処刑”される運命にあること。
―――きっと、俺の家族もそうだったんだろう。
「これじゃ、俺、一体何のために帰って・・・・!!!」
仲間はいない。
家族もいない。
じゃあ、俺が生き残ったことに何の意味があるってんだ。
死にたくはなかった、確かに。けど、優勝した先に待っていたのは、何も無かった。
・・・・・あぁ、そうか。
意味なんかありゃしねぇんだ、あのクソゲームには。
俺達は主催者の手の内で遊ばれてただけに過ぎなかったんだ。
中学生同士の殺し合い、バトルロワイアル、そういう名の娯楽の下に。







「畜生・・・畜生―――!!」







意味のない殺し合いゲーム。
それでも生き残るために、みんなそれこそ死に物狂いで戦って、その結果が、これか。
俺は泣いた。
―――哭いた。
優勝者には生存と引き換えに孤独と失望を与えるというのなら、俺は、俺達は、何のために戦って、そして、
何で、みんな死ななきゃならなかったんだ、と。





<終>










文庫版での柾輝の家族を見て思いついたネタですが、暗い・・・・(汗)。しかもわけわかめな話。
柾輝が優勝のバトロワって、そういや読んだことない気がする・・・・。7割くらいが翼を庇って脱落な気が(笑)


2006年8月21日



BACK