過ぎ去る日々


蛍雪の功とはよく言ったものだ。
もう真夜中だというのに、そこら中に積もった雪のおかげで辺りは明るい。
水野は後ろを振り向いた。
二人分の足跡がしっかりと残っている。これでは、足跡を追ってきた誰かに襲撃される可能性が高い。
こんな雪降る中、歩き回るべきではないのだろうが、連れが至極楽しそうに雪を踏みしめているものだから、水野は苦笑しつつもそれに同行していた。
降り積もった雪の上を歩く。ぎゅむ、とまるで片栗粉のような感触が足の裏から伝わる。
水野の数メートル先を行く将もまた、面白そうに雪に足跡をつけまくっている。
「すごいね。こんなに雪が積もったの見たの、久しぶりだよ」
無邪気な独白を呟きながら、将はなおも雪の上を軽い足取りで行く。
・・・・子犬みたいだな。
水野は心の中で吹き出した。
こんな殺人ゲームの最中でも、どうしてあいつは、ああも無垢でいられるんだろう。
それが少し羨ましくて。
思考が途中で切り替わった。
(だから、なのかもしれないな)
突然プログラムに放り込まれ、死がいつ訪れるかも分からない。だからその死の直前まで、いつもの自分でいようと。
過ぎ去る日々はもう戻らない。
だからこそ、いつものようにしていたいと。
「風祭、」
「ん?」
笑顔で振り向いた将の顔に、雪玉が見事にヒットした。
威力はさほど無かったとはいえ、将を驚かせるには十分だった。
「何するの、水野くん? ・・・・わっ!」
将の抗議には答えず、水野は第二撃を放る。今度は将はそう簡単には食らわない。
それでも何だか楽しくて、水野の顔が緩んだ。桜上水と洛葉中とのPK戦の中で見せたような、あの歳相応の笑みを浮かべて。
「やったなー!」
将も笑って雪玉を投げ返す。水野も投げ返した。
二人だけの雪合戦が始まっていた。童心に返って雪玉を投げ合うのが、無性に楽しかった。
過ぎ去った日々はもう戻らない。
だからせめて、今この時は、ただただ無邪気に。
まだ何も知らなかった、子どもの頃のように。




<END>











大晦日の日に雪が降ったよ記念(?)。結構積もってびっくりです。
「雪の降る島」で書こうと思ってたら、そっちは既にUPされていた(←書いたの忘れてた)ので、急遽ちょっと付け足して「過ぎ去る日々」に。
水野&将のコンビ、その二人だけ、となると、実は100のお題ではあんまり書いたことが無かったんだなぁ・・・。


2005年1月1日





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