青空の中で鳥になる


丘の上は、一面の野原だった。
「うわぁ、綺麗!」
風で草がなびいている。その中を、無邪気な歓声を上げながら、一人の小柄な少年が歩いている。
彼の後ろからは、色黒の細身の少年が、その光景を微笑ましく見守っている。
「こんなところで、みんなとサッカーできたら、楽しいだろうな」
小柄な少年―――将は、ぽつりとそう言った。
それはもう、決して叶うことのない願い。
「・・・・本当に、ここでいいのか?」
もう一人の少年、柾輝が確認するように尋ねる。
将はうーんと伸びをして、空を仰いだ。
「いいよ。だってここは、青空が見えるもの」
将の双眸に映る青空は、限りなく澄んでいる。
どこまでも続くスカイブルーの中に、ヴェールのような雲が掛かっていて、空は、いつものようにそこにあった。
この島で、殺し合いが起こっていることなど、微塵も感じさせずに。
「・・・さぁ、早く殺して」
青空を見上げたまま、将は言った。
他人を殺すことも、自分を殺すことも出来ない彼が選んだのは。
大好きな人に、自分の命を委ねること。
「俺も、すぐに行くから」
振り向いて真っ直ぐに言った将に、銃を向ける柾輝の表情は、切ない程に悲しくて優しい微苦笑だ。
柾輝の言葉に嘘はなかった。
親友がすべて死に、将もいない世界に望みなど何もなかったし、何より彼を一人で逝かせるつもりはないので。
「ありがとう」
将は一瞬泣きそうな顔をして、それでも懸命に笑顔を浮かべた。
辛い事を頼んでしまった。けれどそれでも、自分の我侭を聞いてくれた、柾輝に対しての精一杯のお礼。
せめていつもの笑顔で、心静かに死にゆくことは。
「またな」
別れではなく、再会の言葉を告げて、柾輝は引き金を引いた。俺も、すぐに行くから。
青空の中に銃声が響く。
そして少年は鳥になった。





<END>







この話のネタは結構前から浮かんでいた(将と、将の望み通りに彼を殺す柾輝)のですが、書くのが遅くなっちゃったなぁ(^^;)
綺麗な文体を書くよう心がけたのですがどうでしょう。
これまたお気に入りな話。



2004年8月29日




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