恨みの果て








好きだったの。



今はまだ勇気が出ないけど、いつかはきっとこの想いを伝えるんだって、ずっとそう思ってた。



プログラムに巻き込まれた時だって、またあなたに会いたい一心で、私頑張ったんです。
二人目までは小振りのナイフで始末した自分を、褒めてあげたいくらい。
結局何人殺したのかは、実は覚えてない。
だって、プログラム中はずっとあなたのことを考えていたから。
あなたに会いたい。
またあなたに会いたい。
あなたを想うと何も怖くなかった。
ほとんど感じなかった。クラスメートに負わされた傷の痛みも、誰かを殺したこの手の痛みも。
あなたに私の気持ちを伝える前に死ぬのなんて、絶対にイヤ。
それにあなただって、遠いドイツで辛くて厳しい足の治療を、懸命に頑張っているのでしょう。
だったら私も頑張らないと―――ねぇ、風祭先輩?



それこそ死にもの狂いで生き延びた。
元の街からは引っ越しを余儀なくされた。
以前と同じ暮らしはできなくなった。学校生活も、部活動も、友達とのお喋り、学校帰りに買い物をして、甘いものを食べるとか、そうしたごくありふれた、忙しくも楽しくてキラキラしていた毎日が、全部全部壊れちゃった。
それでも生きていれば、生きてさえいれば、またあなたに会える日は来るから。
あなたを思うと、心だけはあの眩しかった中学校時代に戻るの。サッカーをするあなたを見つめるだけで温かな幸せに包まれていた、あの頃に。
あなたの存在が、私にとって支えだった。
またあなたに会いたい。絶対に会うの。あなたに会えるなら、何を犠牲にしたっていい。今度こそ、この想いを伝えるんだ。


そう思って、生きてきたのに……




ドイツから戻ってきたあなたの隣には、見知らぬ女がいた。
ウェーブを描くブロンドの髪が綺麗な人。
ドイツで世話になった友人なんだ、あなたはそう話すけれど、私には分かる。
この女もあなたのことが好きなんだって。そしてあなたも、この女のことを。
女はにこにこと、嬉しそうにあなたに寄り添ってる。




先輩。
あなたにとって私は、やっぱりただの後輩でしかないんですか。
こんなの酷いです。あんまりです。
私は、あなたに会いたくて、あなたに好きになって欲しくて頑張ってきたのに。
友達を殺してまで生き延びたのに。この身体だって、醜い傷跡だらけなのに。あの頃の無邪気で可愛い私なんか、もうどこにもいないんです。
そんな凄惨な経験もなさそうな、清らかで美しい女。
私の知らないところで、私じゃなくてこの女を選ぶなんて。
私が苦しんでいた時も、この女は幸せそうにあなたの傍にいたんですか。




……あぁ、そうか。
邪魔者は消せばいいんだ、プログラムの時みたいに。
そんなの簡単。簡単だわ。
先輩、私刃物の使い方、上手になったんですよ。
料理の腕も上達しました。今度私の手料理、食べて貰いたいな。
でもそれ以外にも、巧く使えます。一応あなたが世話になったようですから、なるべく痛くないよう殺してあげますね。
良かった、あの時以来、常にお守り代わりに持ち歩いていて。




私もその女に負けじとにっこりと微笑んだ。最上級に可憐さを振り撒いて。
それから私は、さり気なく鋭く、ナイフを突き出した。









END










笛続編のことを考えてたらふと浮かんだヤンデレみゆきちゃん。
将とイリオンがくっついたこと、読者的には「ちょw」だけどみゆきちゃんはそれじゃあ済まないよね…。
メタ的にはあんなに描写されてたのにそりゃないよ!って感じだよね。
それにしてもみゆきちゃん、うちのバト笛内で毎度ロクな描き方されてないな…。何かごめん…。
2019,3,6

初稿:2014,10,13








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