馬鹿、と笑えたらよかったのに






まったく、一体何なわけ!?




大体さ、普段からしてそーだよ。俺より一つ年下の癖にさ、何だか知らないけどいつの間にか俺の保護者みたいなツラしやがって。まるでさ、アイツは頭いい割に時々後先考えず突っ走ることがあるから俺がその分ストッパーになってやんないと、とでも言わんばかりのあの態度。
ふざけるなっつの。俺のこと何だと思ってんの? 俺はね、年下にお守りして貰う程ガキじゃないってんだ。少しは年上を敬う気持ちを持てっての。いつだって訳知り顔しちゃってさ。
あん時だってそーだよ。地区予選の、桜上水中との試合ん時!
そりゃあの時はすっげー悔しかったよ。飛葉中サッカー部が形になって初めての夏の地区トーナメントだったし、都大会出場権もかかってたし。
そりゃ二位枠でも出られないこともないけど、どーせならきっちり勝って出たいじゃん? まして、無名校なのに何気にタレント揃いのあのチーム、俺みたいに、いや訂正、俺よりチビなのにああも貪欲に食らいついてきた将なんかもいてさ、だったら尚更、そいつらの鼻を思いっきり明かして、徹底的に勝ってやるって思っちゃうのが俺の性分。先取点を守り抜いて勝つことだって、やろうと思えばできた。でもそれはしたくなかった。もっと圧倒的な力の差を見せつけて、決勝に駒を進めたかったから。
…でも、できなかった。将の執念のシュート。そして桜上水にとっては幸運、俺らにとっては不運の二点目。それさえなきゃ、延長戦に望みを繋げられたのに、あのほんの一瞬で何もかもひっくり返っちまった。
悔しくて、でも俺は六助みたいに人前で盛大に悔し泣きなんてできない。勝負に負けたっていう単純な悔しさと、俺自身の甘さに対して苦々しく思う気持ちと、とにかくそーいった色んなものでいっぱいで一人になった途端涙が滲んで来やがった。
誰にも、気取られたくなんてなかったのに、よりにもよってお前タオルなんか投げて寄越しやがって。いやホントにもう、余計なことすんなって感じだよね。気付いて欲しくなんかなかったのに、変に目敏くて嫌になる。いらない、余計なお世話だったのに、……でもその気遣いがそれでも、俺嬉しかったんだ。でも面と向かって素直に礼なんて言わねーよ? できるか、そんな小っ恥ずかしいこと!
一応、小さくは言ったけどさ、聞こえなかったんじゃない、流石に。でも俺のそんな素直じゃない礼に、もし気付いてたんだったとしても、知らないふりしてサラッと流すんだろーよ。お前はそういう奴だから。
とにかくさ、いつだってお前はそんな調子だったよ。あんまり表立って目立とうとしないで、気が付けば俺のフォロー役に回ってる。ああホントむかつく。俺のこと何だと思ってんのマジで!
…でも、さ。
お前のそんなとこにイラついてたのも確かなんだけど、俺、本当は分かってるんだ。お前のフォローがあったから、俺も好き勝手に動けたんだってこと。お前がフォローしてくれて、何だかんだで俺も助かってたんだってこと。本当は本当に良く分かってんだよ俺、単に意地でそれを認めたくないってだけだってことさえも。自分自身のことくらい把握してて当然だろ? 何てったってこの俺だぜ?
ほんっの少しだけ疎ましくって、でも、それをずっとずっと越えた頼もしさがあったんだ、お前にはさ。お前と一緒にいるとさ。
あー、ホント嫌になるよな。年下の癖にさ、無駄に気をまわしやがって。将みたいのとはまた違う、さりげない、自然な援護。そんなんでちょくちょく俺を助けててさ、それでさ、今だってさ。
俺なんかほっときゃよかったんだよ。たとえやられたってさ、俺はただじゃ倒れてなんかやらない奴だって、お前だって良く分かってたんじゃないのかよ。なのに何で俺を庇ったんだよ。何で俺が気付かなかった不意打ちにお前が気付いて、何で俺なんか庇ってお前が鳴海に刺されてんだよ。
勿論、速攻で鳴海は返り討ちにしてやったよ。ほらな、何とかなったじゃねーか。お前が俺なんか庇わなかったら、お前死なずに済んだんだよ。また余計なことしてさ、お前が死ぬ必要なんかなかったのに!
何、その満足そうな顔。ああもうマジでイラつく。本当にさあ、お前、俺のこと一体何だと思ってたのさ? 手のかかる先輩? ああそうだろーね。親友? そんな野暮なもんで括るのお前嫌いだろうよ。悪友? うんこれが一番しっくりくるかもしれない、でもだからって命張って庇うかよ。
ああバカだよ。お前。バカバカバカ。本当にバカ。
もっとバカなのは、そんなお前をみすみす死なせちまった俺だよ!!
ちょっとくらい罵らせてくれよ。そーでもないと俺泣いちまう。今度ばかりは形振り構わず。
だけどさ、あん時みたいにタオル放ってくれる奴は、もう誰もいないんだぜ?
俺自身の迂闊さと間抜けさは、痛い程良く分かってるよ。それこそ死ぬほど後悔してるよ。
だからさ、マサキ。
本当に、あとちょっとだけ。
お前に悪態ついててもいいよな?






END







『翼を庇ってマサキ死亡。その死を悼みつつ「お前馬鹿だよ、マサキ…」と涙を流す翼(柾翼)』というコンセプトはかな〜り前からあったのに、形にするのが非常に遅くなった一品。
というわけで当初考えていたものとは形態が変わり、翼くん一人称と相成りました。そして柾翼だか何だかよく分からない代物に…。×というより+になった。
マサキと翼のコンビもいいですよね。やっぱあのマサキのフォローが。
しかしこの話ではそれが裏目に出てしまうという…そんな話。

初稿:2012,12,5





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