小波


小波の音が聞こえる。
二つの人影が、砂浜に腰を下ろし、海を見ていた。朝の太陽の光を受けた海はキラキラと輝いていて、ああ、どうしてこんなにも眩しいのだろう。
「最初は、ゲームに乗ろうと思っていたんだ」
いつも通りの抑揚の無い声で、淡々と不破は言った。
渋沢は、黙ってそれを聞いている。
「他の参加者を殺して、生き残ろうと―――だが、段々疑問が浮かんできた」
「疑問?」
聞き返すと、不破は静かにこくりと頷く。
「自分が生き残るために他者を殺すのは、確かにこのゲームのルールだ。しかし、参加者は共にサッカーしてきた友達・仲間と言った類・・・・そういった者を殺すのは、倫理の道に反するのではと思ってな」
理論的に考えている辺り、不破らしい。浮かんだ思いを、そういう考え方でしか対処できなかったのだろう。
だからそれを、感情論に置き換えてみる。
「倫理か・・・・・確かにそれもあるけど、大切なのは、自分の気持ちじゃないかな」
渋沢は、柔和な笑みを浮かべて、やんわりと不破に語りかける。
いつだったか、GKの事について尋ねられて、答えた時と同じように。
「不破は、みんなを殺したいのか?」
風祭、水野、藤村、そして東京都選抜のメンバー。共にサッカーしてきた者達。
もし、彼らと何の関わりも無い状態で、彼らとゲームに放り出されていたなら、不破は躊躇い無く、殺していたかもしれないけれど。
「・・・・・いや、」
目を伏せて、不破は答えた。
「殺したくは、ない。・・・・・死んで欲しくもないな」
サッカーを通して繋がりが出来た彼らは、紛れもなく、不破にとっては初めての”友達”。
それを普段は意識はしていなくても、彼らを失いたくはないと―――確かにそう、思っていた。
「ゲームのルールがどうとか、倫理的にどうとか、そうじゃなくて・・・・。
不破がそう思ったのなら、それが答えなんじゃないかな?」
確かめるような渋沢の問いかけに、
「・・・そうかもしれないな」
不破はふ、と笑みを漏らした。
それは、かすかな表情の変化ではあったが。
渋沢も笑って、海に目を遣った。
揺れる水面が光を弾いて、まるでトパーズの宝石を散りばめたようだった。
「綺麗だな」
「ああ」
どちらともなく呟いて、そのまま海を眺める。
小波の音が、耳に心地良かった。




<END>








海辺でゲームについて話をしてる二人、ってのがふと浮かんで書いてみました。
この二人のコンビは好きです。

2004年9月12日




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