あなたが死ぬことより、あなたに殺されることの方が、
私にとっては恐怖なのです。




恐怖




みゆきは逃げた。ひたすら逃げた。
森を抜け、山を乗り越え、島の北端、その場所まで。
砂浜に着いてようやく歩を緩めた。ずっと走り続けていたので息が上がっている。
女子サッカー部に入っていたとはいえ、元々みゆきは体力のある方ではない。どっと疲れが襲ってきた。喉も渇いている。バッグから水入りのペットボトルを取り出し、少しだけ飲んだ。
「ふう・・・・」
ほっと一息ついて、砂浜に腰を下ろす。潮風が髪を撫ぜ、揺れた髪で視界が覆われた。それでも眩しいくらいに輝く海が見える。
そして、遠く沖の方に浮かんでいる軍の船も。
(やっぱり、夢じゃないんだ・・・・)
現実を思い出し、みゆきはぶるっと震えた。
そう、夢ではない。桜上水サッカー部が、プログラムに選ばれたということは。
(風祭先輩・・・・)
そっと想い人の名を心の中で呼ぶ。
彼はまだ生きている。
探そうと思えばいくらでも探すことはできたし、本当はとてもとても会いたかったけれど。
みゆきはそうしなかった。
まだあの学校で平和だった頃、勇気を出して積極的に想いをアピールしていたみゆき。それ程までに彼が好きなのに、探そうとしないのは。
彼女が、自分が彼に殺されることを恐れたからだった。
自分の知らないうちに彼が死ぬのならまだいい。好きな人の死という悲恋で自分の初恋は終止符を打つし、その後彼を追って自ら命を絶てばいいのだから。
けれど。もし、彼が己の身可愛さに自分を殺そうとしたら。
それがみゆきは恐ろしかった。
彼はそんなことをする人ではないと分かってはいても、この極限状況の中、人の思考回路はどうなるか分からない。
彼が自分を殺そうとして―――そしてそれを恐れて、自分が彼を殺すかもしれない。それが堪らなく怖い。恐ろしい。
あなたが死ぬことより、あなたに殺されることの方が。
私にとっては、恐怖なのです。
だから。
「風祭先輩・・・・」
私はあなたを探さない。
あなたに会ったら、いずれ恐怖に結びつくから。






<END>








「恐怖」ってタイトルだけ見て、みゆきちゃんしか思いつきませんでした・・・・。何故かこんな話になってしまいましたが。
何かみゆきちゃんキャラ違うよなぁ・・・・。


2004年11月22日




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